2月2日() 晴れ

 長男の中学入試2日目。さて、何気なくFMで聴いた、DragonAshのGrateful Days。なんというリズムなのか知らないけど、この手のリズムも好きなんだよな。ある意味じゃ、饒舌な詩ともいえるかも。びっくりしたのは、歌詞がちゃんと脚韻を踏んでること。あとでHPで調べたら、歌詞の一節に、

肩で刻む軽快なRhythm 想いをのっけて届けるよRhyme  とあって再びびっくり。

2月4日() 晴れ

 仕事柄、入試問題詳解のたぐいにたくさん目を通した。そのなかで、学燈社の国語入試問題詳解のなかのある文章が突然目に留まった。松浦寿輝(まつうらひさき)の文章。いま疲れていてたくさん入力する気力がないので、はしょるが、ともかく突然、ああぼくはこのひとがほんとうに好きなのだ、と悟り、忽然と昼休み近くの本屋に駆け込むことであった。吉祥寺ルーエ1Fでみつけた思潮社の詩集は、しかし端っこが折れていて、買うのに抵抗があったので、立ち読みのみ。でも立ち読みでも、ヴェルトルッチ「ルナ」のとあるシーンへの偏愛を語るエッセイなどを読むにつけても、ますます惹かれ、なんということだろう、不遜なことだが、自分の感性の貧しい履歴が認められたようでうれしく、ひそかに狂喜乱舞したことであった。紀伊国屋のデータベースをプリントすると、20冊以上の著作があるのがわかった。

 そうした連想があって、仕事の後週末疲れた足でコキコキ自転車漕いで、石神井公園の古書店に向かうのであった。草思堂店頭にて、無料の古書山積みは岩波新書青版の大盤振る舞い。鰹節に狂喜する猫のごとく心躍るのであったが、まずはなにか本を買わなくてはいけない。そそくさと店内で松浦氏の本を探したが、ないので、代わりに浅田彰「歴史の終わりと世紀末の世界」(小学館)525円を買い求め、店頭無料本コーナーをあさった。きだみのる「にっぽん部落」、湯川秀樹・片山泰久他「素粒子」、前川文夫「植物の進化を探る」、林雄次郎「卵はどのようにして親になるか」、オパーリン「生命の起原と生化学」。他にもいろいろとあったのだが、ま、ちょっと遠慮もあったので・・・。

2月5日() 晴れ

 松浦寿輝の映画論の一節にこうあった。「写真や映画の映像は、レコード盤の溝の波形に刻みこまれた音響がそうであるように、複製技術によるものとは言いながら、あたかも一点かぎりのオリジナルしかない絵画におけるそれとも似た決定的な姿で定着され、いっさいの変更は受けつけず、それを載せた支持体としてのフィルムと運命をともにして、物質そのものと同じ風化と崩壊の過程を辿ってゆく。それは或る「取り返しのつかなさ」において生誕し、存続し、消滅してゆくイメージなのだ。」第一次複製技術時代に生をうけた僕たちの世代は、レコード・フィルム映画・銀塩写真に郷愁を覚える。その郷愁の存在論的ないみを、松浦氏は美しいことばで語っている。昨日の夜、このことを考えていたら、他ならぬグーテンベルグ印刷術こそ、この第一次複製技術そのものであることに気付いた。版型が紙に打ち付けられた凸版印刷のインクと紙の匂い。

 池袋西武リブロにて、石村園子「すぐわかる微分方程式」(東京図書)2100円。この店と近くのジュンク堂で、松浦寿輝の高雅な詩集や評論を立ち読みした。

2月6日() 晴れ

 吉祥寺にてシュニッツラー「夢小説・闇への逃走」(岩波文庫)310円。昨夜から遅まきながらの微分方程式のお勉強。

2月8日() 晴れ後雪

 吹雪のなかを自転車を疾駆して帰ってきた。遊侠一匹にふさわしい。 もっとも危険なことはするまいと思ってる。京都の小学生殺人事件の犯人の自死。その母親の、決して救われることのない深い絶望に思いを致すのは自分だけであろうか?自死して今や幽冥をわけた若い犯罪者の、その父は若くして病で死んで、そののち不可解な転落が息子を襲った。そういうことで、長く生きて息子の生を見守るのも、男と生まれ父親となったものの勉めといえるので。

 折口信夫の全集のなかから、例えば「古代日本文學に於ける南方要素」(全集第8巻所収)をほそぼそと読む、そんな吹雪の夜なのだ。

 幡ヶ谷T社、Eさんと訪問。若きS社長と歓談。

2月11日() 晴れ

 朝は、都内某中学にて長男の入学説明会に参加。女子生徒の朗らかな挨拶に感心した。

 午後、銀座3丁目「キリンシティ」にて高校の同窓会。ビールやワインをしこたま飲んで歓談すること数時間。異業種間の情報交換。酔った勢いで同期のホームページ制作を請け負う。メールアドレスを集める。

 夜、届いていた日経エレクトロニクス・日経ビジネス誌に目を通し、折口信夫全集を数頁めくって眠った。テレビで「風の谷のナウシカ」を観た。「もののけ姫」につながるテーマ。「(この物語世界に)酔ってはいけない酔ってはいけない」と思いながら・・・。

2月12日() 晴れ

 池袋某ホテルにて、テスト理論の大家O先生と会食。

2月13日() 晴れ

 昨日、「トム・ジョウンズ」(1〜4)(岩波文庫)750円。たろう氏の連想により。今日はいくつかの古書店を見て回ったが結局1冊も買わずじまい。「ダ・ヴィンチ」(リクルート)を買って、本棚と書籍の収納法の記事に目を通した。収納法の記事中、書籍の倉庫委託サービスがいくつか紹介されている。そのうち、東京書庫「Book Keep Service」。運送料・梱包資材含めてかなり大きい箱10箱で年間32,500円とのこと。これを高いとみるか安いとみるか?

 日経BP社の雑誌記事の検索・閲覧・ダウンロードサービスはこちら。例えば5頁ものの記事の場合、どの雑誌でも一律300円(定期購読者は半額)。テキストデータとしてはもちろん、PDF形式でもダウンロードできるので、図版や写真の多い記事を再利用するには便利かも。さて、これを高いとみるか安いとみるか?

 高校同期のMailingList担当を引き受けてしまったので、高校同窓会東京支部のML担当とあわせて2つのMLに参加することになった。東京支部のメールを受け取ったので、同期のMLにFwdで流してみた。これって手動のInter-Net通信ということになるのだろうか?

2月14日() 晴れと曇り

 笹木望・藤崎真美「最新HTML&CGI入門」(エーアイ出版)2,800円+税。

2月16日() 晴れ 夜明け前が一番暗い あるいは「暁の星はいと美しかりき」

 五木ひろしの歌にあったっけ「きっと来るきっと来るきっと〜来る ふたりの夜明けが」。魔術的観念論。世界でたったひとりのひとの微笑みが世界を塗り替えた日の夢よ。ああ、中年はつらいよ。生活の閉塞をじっと抱えて、耐えて生きねばならぬという。

http://www.toefl.org/ で、TOEFL CBT版のソフトを購入した。8$。Tutorial と Practice のソフトがあわせて8$とは安いのだが、ダウンロードにかれこれ1時間以上かかってしまった。CD-EXTRA で教材を供給するという、奔放(?)初のアイディアを夜道で思いついた。こんど自分で焼き焼きしようっと。

2月18日() 晴れ 剣客商売の世界

 このところ、池波正太郎「剣客商売」をほそぼそと読む夜である。初めて読んだのは約10年前。自分も若かった。再読すると、年齢相応の新しい愉しみ方が発見できて楽しい。「あるとき、豁然として女体を好むようになって、な」 こんな科白を六十歳の主人公にいわせても品があるのは、池波正太郎の文の徳である。布団に入って新潮文庫を読んでると徐々にからだが暖まってきて、剣客商売の世界と渾然一体としてくる。そしてコテッと寝るのであった、ああ。

2月19日() 晴れ

 吉祥寺パルコにて、アリアドネ編「思考のためのインターネット」(ちくま新書)。これは仕事の企画のため。今アリアドネにリンクをはったが、おそらくそのHPには、この本で扱っている世界の学術系のWWWのURLはほとんど網羅されているだろう。最新の情報に更新されていることだろう。するとこの本の存在理由は?自己否定に陥らない? そう、WWWを公開してコンテンツを開示することは書籍自体の価値を否定する危険すらある。それを敢えてするアリアドネ(と筑摩書房)に敬意を表する。

 高山文彦「火花〜北条民雄の生涯」(飛鳥新社)をパルコで立ち読み。日経夕刊第1面に、私の会社とスタンフォード大学の提携を報じる。

 夜、「剣客商売」に酔った。たぶん表題で敬遠している方もおられると思うが、素晴らしい小説である。ご一読を乞う。

2月22日() 晴れ

 日経朝刊で、網野善彦「新たな歴史像を求めて」(中)、夕刊で柴田翔「詩に刻まれた声〜石垣りん」。仕事でArakiさんにEXCELの奥義を伝授した。そのことでたいそう喜ばれたので、ぼくはうれしい。ひとをうれしがらせるのもひとの徳であると書いておきたい。

2月23日() 晴れ 沓掛時次郎遊侠一匹

 仕事漬けの中年の一日。楽しいことはない?いえいえ、そんなことはありませぬ。自己実現とか自己の発揚とか、そんなものものしいことはないけど、ほのぼのと人生を楽しむ今日この頃です。これって「剣客商売」が影響してるのか?

2月25日() 晴れ

 冷たい風の吹く日が続いている。昨夜ふと手に取った平井正穂編「イギリス文学史」(明治書院)で眼に留まったHenry Vaughanの詩。WWWで調べる内に、イギリス詩を集めた浩瀚なサイトに巡り会った。ここで、Vaughan の The World はもとより、長く探していた Coventry Patmore の詩の一節の、原詩がみつかった。ここで。(この詩の一節は、私もかつてここで引用したことがあるので読んでみてください。)また、このサイトの詩は、SGMLをベースに記述されているらしい。詳細なドキュメントを読んで感心した。

2月26日() 晴れ

 朝、SONYのホームページでPS2を購入。到着は3月19日とのこと。仕事の帰路、社用で石神井公園に寄り道。近くの草思堂にて、中島史雄「OL株式会社」(双葉社)、阿部知二訳、メルヴィル「白鯨」(全3巻、岩波文庫)併せて750円。白鯨は二十年以上前に途中で挫折した経験があるので、阿部知二訳で再挑戦。

2月27日() 晴れ

 日経書評。辻邦生「薔薇の沈黙」筑摩書房、2200円)を菅野昭正氏が評する。「辻邦生の遺著となったこのリルケ論は、厳しい存在の詩人へと徐々に転身を重ねてゆく階梯を、細密に解きほぐそうとする試みである。(中略)人間が個人としての「固有の死」から見放された、近代の惨落を見つめる勇気ある視力を学ぶことから、大きく開かれた世界を視野にいれながら、人間の存在のいちばん奥のところに根をおろした不安と向かいあう意識の精錬まで、ここでは見るべきものは丁寧に見とどけられる。」

 久しぶりの家族揃っての外出。上野、東京都美術館「モナリザの微笑100」。模写・複製・引用・脱構築といったテーマに分けて、近代から現代に至る<引用>を一覧する。子供には難しいか?館内は当然のごとく、写真撮影・筆記用具を使ったメモそして模写禁止!。モナリザの複製にナイフを突き立て、ヨーロッパ文化に疑義を投げかける挑発的な作品には、厚いアクリル?の防護が施してあるのも当然。しかし、この<作品>に、例えばなんらか不埒なことをしかけるのは許されない。すべては当たり前のことであって、ことさらに言うのもおかしいが、それにしても、この種の芸術のぐるぐるまわりに、深くつきあうつもりはない。「親切な物理」(上下巻、正林書院)のほうがよっぽど親切だ。と書いたけど、この展覧会、とても面白かったのも事実だ。企画の秀逸を否定するつもりはない。

 上野動物園。高貴あるトラの居ずまいにうっとり。

 帰路、池袋リブロにて、岩波文庫復刊、ハイネ「冬物語」・スティーブンソン「二つの薔薇」。1365円。たろうさんの追体験ということ。どちらも不幸にして失った本で、再購入になる。

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