12月3日(日) 晴れ・曇り

 近くの古本屋で、弘兼憲二「黄昏流星群」第1巻・第2巻。第2巻「鎌倉星座」に涙がこぼれた。他に山田太一編「生きるかなしみ」(筑摩書房)。今日は江古田駅から練馬駅に至る長い道のりを散歩しながら古本屋を巡った。めぼしい本なし。

 仕事で日本のWBTの市場規模を調べるのに、日経BP記事検索サービスを使った。貴重な情報が入手できて、威力を実感。

12月9日(土) 晴れ

 「これから始めるひとのXML」(日経BP社、1400円)をツタヤで。XMLに関する雑誌の類も急に増えてきたような気がする。店頭で手にとってCD-ROMがついてないので、ちょっと残念だったが、家に帰ってパラパラめくると、主要プログラムは関連Web Siteで公開されている。光り物を添付して、制作・物流コストに上乗せするよりももちろん合理的だ。この私のほうが光り物にこだわっていたわけで、ちょっと面白く思った。

 「日経エレクトロニクス」の定期購読を満一年で終了し、かわりに「日経情報ストラテジー」を購読することにした。EC、WBTなどの記事が多そうなので。

 先週は某大手印刷会社の方から、電子フォームJetFormのプレゼンを受けた。http://www.jetform.co.jp/ Acrobatよりはるかにダイナミックなフォームが作成できる。例えば自動採点する電子フォーム、サーバに採点結果を送信する<フォーム>。これらは<フォーム>自身で実行される、決して他のシステムを必要としない。

 ただし、クライアント用のPlug-inは随分高いのが難点。また、来週は、信濃町で開催されるe-learningFORUM2000に参加することにした。他にも、ここでは紹介できないが、毎週毎週新しい提案をたくさんの企業からいただいている。こなすのが大変だ、当方の力量が問われている。

 いっぽうで、弘兼憲二「黄昏流星群」第4巻(「星のレストラン」)。冬の夜更け、ぼろぼろと涙が流れてとまらない。落莫した元天才シェフと若い青年シェフそしてその恋人のこころの交流。いま思うのだが、阿佐田哲也「新麻雀放浪記」(文春文庫)と同じく、老いて落莫した老人が、才能を活かすことをしらぬ青年に昔の自分をみて、彼を教育していくという、いわば教養小説の変形ともいうべきプロットに、わたしは弱いのだろう。思いつくところでは、ボルヘスの「他者」(「砂の本」所収)もそうだ。もっともボルヘスの場合は、訓導するのは若き日の自分自身である。老いてやがて異性愛は融けて消え、最後は自己愛とも同性愛ともつかぬ、追憶のような思慕が残るのか。

 夕方、墓地のそばを通ったら、西の空にひときわ燦然とVenusが輝いていた。東の空には月に寄り添う土星(火星か?)と木星があった。 凍てついた清澄な夜、コートに身をくるみしばらく夜の星たちを眺めていた。

12月10日(日) 晴れ

 「ニーチェからの贈りもの ストレスに悩むあなたに」(白水社、1999)1,000円。ともすれば安直なアンソロジとも受け取られかねないが、この表題は原題である。

 「偉大な人は、地味な物事のために口添えする」「偉大な人々はみな、偉大な労働者であった」他。久しぶりにヨーロッパに触れた。

 池袋にいった。島津忠夫編「百人一首」(角川文庫)と、百人一首のカルタを、長男のためにかった。池袋文芸座の復活がうれしい。12日オープンのようでまだ一部外装工事中だった。日本映画ベスト88の上映ラインアップを眺めてきた。池袋東口K書店、2階の威容に感動して帰ってきた。

12月11日(月) 晴れ

 今日も仕事が忙しかった。

 今日の夕刊のトップ記事、インテルの次世代MPUの発表。2005年までに、現在のMPUの10倍の能力のMPUを量産すると。うがった見方をすれば、このところのUSAのIT関連企業の業績悪化にともなう資金の逃走を防止するためとも思える。インテルって、このところ意外と次世代への展望がみえにくくなってたような気が・・・。

 このところ、若いかたの優れたHPに巡り会うことが多く、感動するやら、いっぽうでもう自分の出番がなくなったような寂しさやら、複雑な気持ちである。冬の短い日いつの間にか夕闇は深く。我楽多本舗。そのリンクで知った松岡正剛の実験的Page

 日経情報ストラテジー1月号が届いた。特集は「ネットが儲からない理由」「これが注目の最新ITだ」。

12月12日(火) 晴れ

 文京区K高校に、某ソフトウェア会社の方とふたりで、英語科A先生を訪問。高校におけるPCおよびインターネットの活用についての調査のため。驚いたことに都下200余の高校のうち、生徒がインターネットを利用できる高校は10校たらずとのことだ。当面の間、高校へはCD-ROMなどのパッケージでソフトウェアを供給するしかなさそうだ。もっとも、各高校には、42台のWindowsのPCと、WindowsNTサーバによる校内LANで結ばれたコンピュータルームがあるので、ネットワーク環境のインフラは整っている。つまり、VOD(Video On Demand)サーバなどを、追加投資をあまりせずに、導入する素地は整っているわけだ。A先生から英語にまつわる貴重な話をたくさんうかがった。

12月17日(日) 晴れのち雨

 今宵しっとりと雨が降っているせいかやや暖かくなった。石神井にて「ヘンリ・ジェイムズ短編集」(岩波文庫)、ハイネ「流浪の神々・精霊物語」(岩波文庫)計550円。長男の担任の先生と面談したり子供の数学の勉強の面倒をみたり、食事を作ったりした連休だった。たったそれだけ。すいません。

12月21日(木) 曇り

 日経情報ストラテジー2月号が届いた。「IT経営アワード」他。日経に勤めてるMさんがいみじくもいう通り、経営層へITの啓蒙を図る雑誌のようでいささかミスマッチに後悔しているが、ままよと1年購読するつもりだ。

 一方、坂手康志「Eラーニング」(東洋経済新報社、1600円)。今はまだざっとも目を通していないが、目を通す前にじわじわこの本の価値が分かってきた。情報を提供してくれた遠藤さん、ありがとう。AICCの後継である教育コンテンツの世界標準規格IMSに関してはここを。

12月22日(金) 曇り

 日経情スト誌、特集1「IT経営アワード〜21世紀を先取りする要注目企業100社」。キーワードは3つであるという。まずKM。Knowledge Management。知恵と情報の共有と流通を醸成すること。次にCRM。Customer Relationship Managemant。顧客情報のダイナミックな運用ときめ細かいサービス。最後にSCM。Supply Chain Management。購買・発注・物流・在庫管理などのオープン化とリアルタイムな運用。いやあ、ひとつひとつ耳に痛い。

 石神井公園にて、ホーソーン「人面の大岩」H・ジェイムズ「友だちの友だち」(共に国書刊行会「バベルの図書館」シリーズ)、中島らも「水に似た感情」(集英社)計1650円。ようやく文芸が恋しくなってきた。

12月25日(月) 晴れ 汎アジア的なノスタルジー

 23日付日経朝刊文化面では、「折口信夫に議論高まる」と題して浦田憲治論説委員が昨今の折口論を俯瞰している。95年からの新全集(37巻+別巻4巻)刊行の前後から新しい折口論が相次いでいる。取り上げられているのは、詩人の藤井貞和「折口信夫の詩の成立」、歌人の岡野弘彦「折口信夫伝」、富岡多恵子「釈ちょう空ノート」、松浦寿輝「折口信夫論」、吉増剛造「生涯は夢の中径」、門弟の加藤守雄「わが師 折口信夫」、同じく弟子の穂積生萩「折口信夫 虚像と実像」など。「日本人の意識の深層には霊的な古代感覚が横たわっているといわれる」(浦田氏)。没後50年になる2003年に向けての新しい折口論の展開。

 この折口信夫の記事に目がいったのも、わたしが中島らも「水に似た感情」をちょうど読んでいたから。「なぜこのバリ島でノスタルジーを感じるんだろう」「なぜでしょうね」「この想いは上へいったときも感じたし、韓国へいったときにも感じた。汎アジア的なノスタルジーというものが我々の根幹に横たわっているのかもしれない」(本文より)。中島らも特有のエンタテインメントで、あっという間に読み終えたが、この<汎アジア的ノスタルジー>ということばが妙に気になる。<インド→中国(→韓国)→日本>という仏教・儒教の文化伝播とは別に、<ポリネシア文化圏(→中国・台湾)→沖縄(南西諸島群)→日本>という南方起源の文化が日本の古層に横たわっているのかしら?「古事記」のヒルコは葦船にのせられて流される。「法」という字は水に委ねる流たく。盂蘭盆の七夕祭で、に流す七夕の笹。この本を読んでほんとうにタイにいきたくなってきた。

12月26日(火) 晴れ

 ひときわ寒い朝だ。

 R・スコットの「Gladiator」をDVDで観た。「Blade Runner」ほどの傑作ではないと思うが、それから妙に心に残り続ける映画だ。音楽も秀逸。3980円のDVDが買いたい。日経のコラム「描かれたエルダー」を毎週読んでいる。老いに関する小説や映画を毎週取り上げているコラムだ。「欧米には、年をとることは衰退することではなく経験を重ねることだ、と教えてくれる映画がたくさんある。」こういう書き出しで紹介しているのが、「カミーラ・あなたといた夏」「フライド・グリーン・トマト」「ドライビング・ミス・デイジー」の主演女優ジェシカ・タンディ。半額クーポンにつられてTSUTAYA onlineに先日入会したばかりなので、近隣の南田中店の在庫を調べてみた。このTSUTAYA online、店頭のPOSとリアルタイムに連動していて、<今このとき>貸し出し可能かが即座にブラウザで調べられるのである。会員になるとCockieに属性を持たせてあるので、最寄りの店とシームレスに連動するのである。さすが日経情シス誌で、CRM実践企業に名を連ねるだけのことはあるなあ。結果、「カミーラ」「フライド・・」の2作が貸し出し可能だとわかったので、さっそく借りてきた。(まだ観る暇なし) 老人小説・老人映画・老人マンガ(「黄昏流星群」)、このところこんなのが心情的にぴったりだ(^^;;)

12月28日(木) 晴れ

 「カミーラ・あなたといた夏」(1995)を観た。主演のジェシカ・タンディとブリジッド・フォンダが素敵。公私ともにスランプに陥った中年音楽家の悩みをジェシカ扮する老いた元音楽家が救う。ジェシカ自身は、かつて子供のためにあきらめた愛を実現する。「愛すべき宝石」のような小品。

 講談社版日本の歴史第0巻 網野善彦「「日本」とはなにか」1500円。最新の学の成果に基づいた網野学の一端を学んでみたい。

 先日、職場で話題になったアエラ 2001年第1号の小特集「数学が人生を決める国」。そうデカン高原のシリコンバレー、バンガロールが象徴するようにこのところIT産業の躍進著しいインドの数学教育事情。貧困と因習から抜け出すためには数学や英語を猛勉強するしかない。未だ教育環境がじゅうぶん整備されたとはいえないようだが、子供たちの熱意に度肝を抜かれた。記事中、IIT(インド工科大)の入試問題2題。1題目は、二次方程式の解と係数の関係を使ってとく証明問題。これは一応解けた。がりがりと数式を変形して。もっとも鬼友Fくんによれば、図形的に解くエレガントな解法があるという。第2問目はまだ解けない。同一平面上の2つの三角形。三角形の3頂点から、別の三角形の3辺へ下ろした垂線が1点で交わるとき、別の三角形の同様の3垂線もまた、1点で交わることを証明する問題。平面幾何ではちと大変か?複素数で解くのか?

 このアエラの特集が引き金になったのか、偶然なのか、ともかく今月の新潮文庫新刊、藤原正彦(お茶ノ水女子大教授、故新田次郎と藤原ていの次男)「心は孤独な数学者」438円が店頭で眼にとまり買って一気に読んだ。約半分を占める「インドの事務員からの手紙」は、インドの生んだ天才数学者ラマヌジャン(1887-1920)の不幸な人生の評伝。生没年からわかるように33歳で夭逝している。この天才数学者を追って藤原氏はインドの各地を旅する。その紀行文と評伝が渾然一体となって興味津々で一気に読んだ。氏の旅は数年前のものだと思うが、先に書いたITの目覚ましい躍進とともに、旧態然としたインドも冷静に叙述されている。

 今回改めて痛感したことだが、数学上の天才の営為というものの妥当な評価には死後半世紀や1世紀は必要なのだ。ラマヌジャンの発見した3500以上の定理の証明は今もって完了していない。手元の「岩波数学辞典第2版」(1968年)などで調べても扱いはそれほど丁寧ではない。もとより数学の素人には近寄ることもできない領域だが、それだけにラマヌジャンの天才ぶりが理解できるような気もする。歳末の半日をかける価値がある。一読をお薦めします。

12月31日(日) 曇り

 週刊文春1/4・11号で、20世紀傑作ミステリーベスト10という記事があったので、酒と一緒にコンビニで買った。普段はこの手の記事くらいでは雑誌は買わないが、1977年から2000年まで24年間の国内外のベスト10も一覧になっているので、保存するつもりで買った。さっそく赤鉛筆で消しこみしてみた。読んだ本(持ってる本)は、国内部門で2/10、国外部門で5/10。ちなみにベスト10を各々列挙すると、国内部門では、(1)☆大誘拐 (2)火車 (3)マークスの山 (4)占星術殺人事件 (5)レディ・ジョーカー (6)魍魎のはこ (7)理由 (8)☆事件 (8)写楽殺人事件 (10)永遠の仔。面倒くさいので作家名を入力しないけど、わかるひとにはわかるからいいでしょう?

 国外部門では、(1)☆羊たちの沈黙 (2)☆薔薇の名前 (3)☆シャドー81 (4)推定無罪 (5)検屍官 (6)☆百万ドルをとり返せ! (7)警察署長 (8)クリスマスのフロスト (9)死の蔵書 (10)☆呪われた町。(☆読了本)

 20世紀の終わりで人気を微分すれば、こんなところなのだろう。1901年からこの方、ずっと積分していれば当然違うベスト10になったことだろう。お祭り企画だから別に悪くもないが。(この企画1977年からの年間ベスト10を対象にしていることに今気付いた。)

 というわけで、歳末の慌ただしいなか、スーパーでのおせちの材料の買い出しをぬって、欠けてる本を古書店で探した。コーンウェル「検屍官」(講談社文庫)、ダニング「死の蔵書」(ハヤカワ文庫)。これで国外編は7/10まで至ったぞ。

 他に、「芭蕉文集」(新潮日本古典集成)、「経済ってそういうことだったのか会議」(日経)、「日経新聞30分ポイント読み」(アスカ)、藤原正彦「数学者の休憩時間」(新潮文庫)。

 ラマヌジャンを慕って映画「グッド・ウィル・ハンティング」を観た。これはかわうそ亭御主人の薦めによる。とあるHPで理学部の先生が「ロマンティックな天才などいない」と喝破していて、妻も同じ意見だ。ただし(映画はともかくとして)ラマヌジャンのような天才は確かにいるのだろう。それはそれで厳然とした事実だ。数学や物理学の天才、美術や詩歌・音楽の天才。これらは確かに天才と頷ける。その天才の生涯はえてして不遇である。その理由はここに書くまでもない。

 同じくDVDで映画「ミッション・ツー・ザ・マーズ」。ブライアン・デ・パルマ監督。「未知との遭遇」「コクーン」等と同じテーマにゃ弱いので、最後は癒しの涙がぽろぽろ。でもIMDBで英米人の意見をきくと、けっこう酷評が多い。とある米国人曰く、「人類の起源が火星野郎なんて、バイブルのどこにも書いてないぞ、ちくしょうめ」(意訳)。おっとこれは***SPOILER***って奴か。御免ごめん。でもキリスト教徒はこの手のファンタジにはけっこう生真面目に反応するのね。大乗仏教のわたしにゃ、これはこれで楽しめるのだけど。

 ラマヌジャンの評伝「無限の天才」(Genius of Infinity)の邦訳が工作舎からでていることまでは突きとめたのだけど、高価(5,500円)なので買えるかどうかわからない。ともかくも、急に復活した天才数学者への興味や、IT技術の継続的学習や、ミステリーへの関心やらで、20世紀も終わりを告げそうだ。妻曰く、「21世紀って人類の第2のルネサンスになるのかしら?」。そう・・・。

 人類の、いやともかくも自分ら家族の<希望の原理>とは何か、をぼんやりと、はたまたしっかりと考えながら、20世紀は終わるのであった。

 旅人さん、かわうそ亭さん、由里葉さん、たろうさん、そしてYoさん。このページをご覧になっている皆様。大変お世話になりました。皆様、よいお年をお迎えください・・・。皆様の来年のご多幸をお祈り申し上げます・・・。 

(了)

 

 

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