8月5日(土) 晴れ一時夕立

 このところ買った本、幸田露伴「太郎坊」(岩波文庫)、表題作は昔の恋人の忘れ形見の茶碗をふとしたミスで割ったことから始まる追憶譚。なぜかよかった。有島武郎「一房の葡萄」(岩波文庫)は31年ぶりの買い直し。状態が美しい本(帯付き・パラフィン紙つき)なので。中学1年のときに読んだのを店頭で思い出し、おなじ歳の息子のために。他に「枕草子」(岩波文庫)・関川夏央「中年シングル生活」(講談社)以上を650円で石神井公園にて。「中年シングル生活」のもととなった日経新聞上のコラムをかつて読んだ日、このコラムで「人生の三災」という言葉を知り、そのことが長く気になっていたのだが、たまたま古書店で買い求めたこの本の、1カ所だけつけられた頁の左下の折り目、その折り目が、件の6年前のコラムの該当箇所に導いてくれた奇遇を良しとする。

 ところでこの「人生の三災」ということば、関川氏に拠れば孔子のことばだという。書棚の奥から金谷治訳注「論語」をひっぱりだし、索引で探した限りではみつからない。日経新聞によれば、この岩波文庫(最近改版)がこのところよく売れているという。なんでもサッカーの中田選手が愛読してるという記事が引き金になっているのだとか。

 某有名ポータルサイトに、英語コンテンツを載せた。初日予想を超えるアクセスで関係者一同大喜び。コンテンツを<どこに発表するか>がコンテンツ制作の鍵になってきた。

8月6日(日) 晴れ

 昨日、東京ビッグサイトに「ゆめテク」展を見に行った。もちろん一家4人で。猛暑のなか移動だけでもへとへとになるのに、加えて大変な人出。そのほとんどが子供連れだ。写真はHONDAの最新鋭人型ロボットP3のデモ。子供たちと一足立ちの競争をしてるところ。このあと、壇上から階段を下りるデモも成功した。階段を下りる際には、壇上のスクリーンにも制御用の画面がでてきた。階段を見下ろす画像の解析・運動パターンの演算などのウィンドウがめぐるましく開閉していて、面白かった。(人垣の後ろから両手を挙げての写真撮影なのでピントはいまいち)

 人混みに嫌気がさして午後4時頃には「お台場」へ移動。フジテレビなどを見学した。おじさんにはつまらなかった。そのあと「お台場浜公園」へ移動。レインボーブリッジを目の前にするさほど広くはない砂浜で、東京の夏の夕暮れを楽しんだ。(ここまで昨日)

 今朝の日経のコラムで、岩井俊二「LOVE LETTER」(中山美穂・豊川悦司主演)誉めてあったので、ツタヤで借りてきた。カメラワークが神経質で慣れるまでに時間がかかった。今半分くらい観たところ。

8月8日(火) 晴れ

 妻の実家に泊まり、そこから金沢八景に釣り&水浴にでかけた。

 2度目の船釣り。関東圏では初めての体験。前日予約してあったので、金沢八景駅に車で迎えに来てくれた。釣宿「太田屋」(TEL 045-782-4657)。8時から10時までの2時間で家族4人で12,000円(釣り竿・仕掛け・エサ・氷一切込み)。他に釣り客がいないので貸し切りと同じ。初心者一家なのでありがたい。キス釣り。いくつかのポイントを巡回。釣果は、キス多数・タコ・キュウセンベラ・マゴチ。素人一家なのでまずまずのところ。手返しがよければもっと釣れたと思うが、なにしろ一家全員もたもたしてるのでしょうがない。

 午前10時に港に戻り、徒歩10分で八景島近くの水浴場に向かう。施設は無料で清潔。平日なので思ったほど混んでいない。水もきれいで、満足でした。水浴&磯遊び。船釣りも水浴も両方楽しめて、近くに八景島シーパラダイスもあって、金沢八景のお得さを再認識した。

8月10日(木) 晴れ

 昨夜は激しい雷雨。神奈川の高台にある妻の実家では、関東平野の広大な地域に落ちる雷が、遮るものなく深夜に轟き、夢で空襲かなにかとみまがうばかりでした。朝は、近くの舞岡自然公園でシダ植物の採集。暑くてすぐばてた。

 帰路、池袋西武のリブロで、長部日出雄「二十世紀を見抜いた男〜マックス・ヴェーバー物語」(新潮社、2400円) Max Weber評伝。二十世紀を代表する社会学者としてエリートコースを突っ走ったひと位の認識しかなかったので、父との葛藤と破局を経て、長い鬱に悩んだ後半生にとても興味を持っている。「やがてながい鬱病の中で自分の生き方を問いなおし、人間の文明そのものをむこうにまわして見る。文明をとらえるための型の抽出作業は、この仕事にかかわる前のながい期間にわたる無為と絶望をとおしてなされた。」(鶴見俊輔氏の日経読書面書評から抜粋)

 イサム・ノグチの評伝といい、このWeberの評伝といい、そこから自分の半生を省みているという、そんな夏だ。

8月16日(水) 晴れ

 吉祥寺外口書店にて、瀧田夏樹訳「トラークル詩集」(小沢書店)600円。gooで調べると、原詩を含む浩瀚なサイト(雨宮孝幸氏作成)にめぐり会い、感激してメールを送った。丁重な返書をもらった。トラークルの詩を読むと、原詩にたどり着けない自分が歯がゆく、優れた訳なのだろうけど、靴の底から足を掻くようなもどかしさを感じる。かつて弥生書房版で感じたのとおなじもどかしさに欲求不満になって、夜は伊藤静雄の詩を読んで慰めた。

同じく吉祥寺「りぶる・りべらる」で、児島襄「東京裁判(上)(下)」(中公新書)200円。

8月17日(木) 晴れ

 昼休みに、ヘッセ「青春はうるわし」(関 泰祐訳、岩波文庫)を吉祥寺の古書店で買い、近くのドトールコーヒーで「秋の徒歩旅行」を速読した。この本を新潮文庫で買ったのは昭和48年3月22日だと、古い手帖にある。実に27年ぶりに再読したことになる。夜、寝床に入って「青春はうるわし」を再読すると、まあたわいない帰郷譚である。それでも甘美なせつなさを感じるのは、故郷の喪失と故郷へのノスタルジー・父母・兄弟との再会と別れといったテーマと自分を重ねて読んだ若い日の思い出があって、そんな思い出のなかの自分が懐かしいからだろう。いつかどこかで久世光彦が、「その詩が懐かしいのではない、その詩をかつて読んだ自分が懐かしいのだ」といったことを書いていて、衒いもなくさらりと書いてしまう久世さんを心底懐かしく思ったことがあるが、今のわたしの心境もそれと同じだ。あの当時、未来はミンコフスキー光円錐のように希望と夢にあふれていて、それでも再会のかなわないひとへの憧れを想って自分は悲しかった。そんな日に読んだ、<帰郷の物語>。故郷は青く、ひとびとは優しく実直で、家族は皆優しい。しかし故郷は自分の志をうけいれるにはあまりに小さいということ。さて、月日はたって元少年の青雲の志は実現したか?バブルは崩壊し、借金が残り、将来に夢なく、父母に孝養はつくせず、自らの限界を嘆く今日この頃。短編のおしまいに、再び故郷を去る主人公が車窓から、弟のあげる打ち上げ花火を見上げるシーンがある。27年前もこの終わりがとても好きで、このところをよく覚えて生きてきた。そして今宵またこのシーンにじんとした。

 Weberの評伝を読むと、ヘッセの「車輪の下」やこれらの教養小説の背景になるドイツの政治制度・教育制度をしっかり把握しなくちゃいけないんだろうなと痛感する。ギムナジウムとは高級官僚を養成するコースで、日本の旧制高校の精神的風土とよく重なるのはもちろん明治以降の日本がよくこの教育制度をまねたからだろう。

8月18日(金) 晴れ

 夜、稲垣足穂大全第4巻(現代思潮社)を書棚から出し、「世界の巌」などをすこし丁寧に読んだ。煌めく文体。若い日の清澄な秋をよく想いだし、いささか癒されて寝た。今年生誕百年というのに、同じ生誕百年のサン・テグジュペリばかりに光があたり、稲垣足穂の再ブームはこない。もっともそんなつまらぬ市井の騒ぎを軽蔑するようなひとだったから、かえって天上で喜んでいるかもしれない。

8月26日(土) 晴れ

 朝、近くの古本屋BOOK TURNの有線で、小椋桂「甘いオムレツ」を聴いて涙を零した。あやうく声を出して泣くところをぐっとこらえた。「対訳 ポー詩集」(加島祥造編、岩波文庫)を立ち読みして再び涙。その詩 To Helen (Whitman)、ロマン主義的な女性賛美にわたしゃ弱いの。200円で買っておいた。それからツタヤに小椋桂を借りにいったが、「甘いオムレツ」がなくて、かわりに「RE BEST」。「白い一日」「俺たちの旅」。でも井上陽水や中村雅俊のほうが懐かしい。ビデオで「TAXI」(Luc Benson 監督)意外とよかった。トム・クルーズの「Mission Impossible」の連想で、このところオリジナルの「スパイ大作戦」を見続けている。30年たっても新鮮で面白い。

8月30日(水) 晴れ

 六本木のスタジオINFASにて音声素材の収録。約10年ぶりの六本木だった・・・。

8月31日(木) 

 心とからだのひどく疲れているとき、妙に開高健の釣り紀行が読みたくなる。「もっと遠く(上)」(文春文庫)の自由闊達な煌めく文体に酔う、今日この頃だ。

 絶版文庫を電子書籍として販売する「電子文庫パブリ」のことが日経朝刊にでている。ラインアップが楽しみだ。(31日朝時点では予告頁のみ、明日から開店らしい)

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