1月2日(火) 晴れ

 謹賀新年。

 藤原正彦「心は孤独な数学者」(新潮文庫)。3人の数学者の評伝・紀行。インドの天才数学者ラマヌジャンについては、「無限の天才」Genius of Infinity という評伝が工作舎からでてることがわかったが、高価(5,500円)なので困っている。残りの2編、ハミルトンとニュートンの評伝も読んだ。どちらも2人の天才数学者を慕って当地を訪れる紀行文と渾然一体になっていて、一気に読ませる。さすが新田次郎・藤原ていの子供だなと妙に感心するのである。この2編のなかではハミルトン(1805-1865)の評伝「アイルランドの悲劇と栄光」が特に興味深い。アイルランドの歴史と文化。ハミルトンの初恋。その初恋を30年もの長きにわたって胸に抱き続ける純情に胸を打たれた。

1月3日(水) 晴れ

 実家に帰る妻子を見送る方々、池袋の本屋を覗いた。西武リブロとジュンク堂。結城信一全集(未知谷刊)、稲垣足穂全集(筑摩書房)、西条八十全集(国書刊行会)などをうっとりと手に取った。そして買ったのはE・T・ベル「数学をつくった人びと(下)」(東京図書、2500円)。ひとりぼっちの寂しい夜、ハミルトン・ガロア・アーベルの3人の評伝を読んだ。みな満たされない不幸な一生である。貧乏・病気・同時代の学者たちの無理解。

1月5日(金) 晴れ

 連日の快晴のせいで夜は猛烈に寒い。

 「数学をつくった人びと(下)」、引き続き、エルミート・リーマンと読み続けている。世俗を超越した(それゆえに同時代の凡人に理解しがたい)生き様はどんな小説よりも奇である。

 昨日夕刊社会面にて、国会図書館が明治時代の書籍の画像データベースを2002年より公開するとの記事があった。同じく夕刊第1面のコラム「あすへの話題」では、川勝平太氏が「美の文明」と題して、カントの3批判、すなわち「純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」の読み直しこそ21世紀の文明の向かうさきを占う鍵であると喝破していた。おう、そうか。20年来積ん読のままの、小生にとっては怖るべき本だが、むむ、そうかもしれないと思った。

 自宅近くのBOOK TURNでアーヴィング「アルハンブラ物語」(上・下)(岩波文庫、200円)。

1月7日(日) 曇りのち雪 ミステリーのはなし

 今日は仕事。帰りは雪になっていて、自転車で徐行しながら帰った。手が凍りそうだった。

 たまにはミステリーのことを書く。トマス・ハリス「羊たちの沈黙」「ハンニバル」が各方面で話題になっている。週刊文春「20世紀のミステリー・ベスト10」の堂々1位は羊のほう。続編ハンニバルは日経新聞書評欄ミステリ部門1位。というわけで、ジョディ・フォスター主演の映画を借りてきたが、この手の映画はねえ、思春期の男の子を抱える家庭では見せづらくてね、結局ビデオを途中で止めて、近くのBOOK TURNに新潮文庫を買いに行った。100円。昔持っていたはずだが、書庫にないので。読んだはずだが記憶にないので。実はトマス・ハリスとは「ブラック・サンデー」以来20年以上のつき合いになる。「ブラック・サンデー」の映画が封切りになって楽しみにしていたところ、爆弾テロの脅迫電話であっけなく封切り中止になったのは、もう20年以上前のことになる。羊の世評が随分高いが、実は僕はこの「ブラック・サンデー」の印象がとても強い。

 「死の蔵書」途中で読むのをやめた。アメリカ流書籍の蘊蓄は楽しいが、それだけではもたない。「検屍官」は一応最後まで読んだが、別に20世紀ベスト10とも思えない。というわけで、戯れに買った週刊文春のせいで急にミステリに転向したが、それほどのめりこめない自分だ。というわけで急遽V・ウルフ「ダロウェイ夫人」(丹治愛訳、集英社)を400円で買い求め、ひそかに読もうと思っているところ。

 Yoさんが奨めるMartin Davis "The Universal Computer"(26.95$)。魅力的な表題だ。たまたまAmazonの売上ベストに載ってたので、今日の日経書評欄と前後して知った。Yo さんAmazonで注文した由。私は前世紀(つまり20世紀)のアメリカのコンピュータ・サイエンスの興隆は、第2次大戦前にヨーロッパから多数の知識人が流入したせいだと思っている。そのことを検証したくてS・ヒューズ「大変貌」(みすず書房)を探しているが古書店では意外とみつからない。(もっとも弟のMくんが買った本が実家に眠っているような気がするが)

1月8日(月) 雪のち曇り

 先日の日経新聞文化面特集は、種田山頭火・尾崎放哉・西東三鬼の三俳人の、このところの人気について。ちょっと気になっていたところ、greenyさんのBBSで同じ話題に接して、尾崎放哉の評伝吉村昭「海も暮れきる」(講談社文庫、514円)を教えてもらった。吉祥寺弘栄堂でみつけて買った。いっぽうMartin Davis "The Universal Computer"をAmazonに注文しておいた。

1月9日(火) 

 町工場のような規模の会社でも、世界のディファクト・スタンダードのような技術をもっている優れた会社はたくさんある。そんな3つの会社を紹介するのが、日経ビジネス(1-8号)「3社長の痛快物語「超常識経営」で行け」。「売らない」哲学で43期連続増収実現、の伊那食品工業など、面白い会社ばかりだ。3番目に紹介されているのは、東京中野区の「日本アルミット」社長 澤村経夫氏(72歳)だ。高性能ハンダを、ロッキード・ヒューズ・NASAなどの航空宇宙産業に納める。世界シェア90%という驚くべき企業である。実はこのひとを、先日たまたまつけたTVで観たばかりだ。石原都知事に意見具申!てな感じの企画番組で、日本の企業の頑迷さ・保守性を指摘しておられた。なんでも、高性能ハンダを開発して日本のいくつかの大企業に持参した当時、どこでも門前払いだったという。担当者は、実績がない、の一点張り。勇を鼓してアメリカにわたって片言英語でプレゼンしたところ、先に書いた超優良企業であっという間に採用が決まったそうな。

 さて縷々書いてきたのは訳がある。この後の記事を読んであっ!と驚いた。実はこの澤村社長、81年に工作舎から「熊野の謎と伝説」という本を上梓していたのだ。なんとこの優良経営の原点は民俗学だというのである。「日本で採用されないから米国に売りに行ったことも、誰も作らなかった塩素抜きのハンダに挑戦したことも、すべて現場を確かめることを重視する民俗学の発想から生まれたものだ。」(記事より引用)

 AmazonからMerriam-Webster's Vocabulary Builderが届いた。難しい単語が多くて意欲がわく。語源や接頭辞で分類してあるのも興味深い。

1月14日(日) 晴れ

 手当たり次第に本を買った。

 「ファインマン物理学」 I & II(岩波書店)。ロゲルギスト「続 物理の散歩道」(岩波書店)計2500円@よみた屋。エーコ「フーコーの振り子」上・下(文春文庫)計200円。中島義道「人生を<半分>降りる」(新潮OH!文庫)山田光顕「英語確実に身につく技術」(河出新書)、麻生幾「極秘捜査」(文春文庫)計1900円。

 このうち麻生幾の本にどっぷりはまり、私にしては珍しく深夜まで読み耽って一日で読了した。この本はオ○ムと警察・自衛隊の”戦争”を克明に記すルポルタージュ。小説「宣戦布告」も面白かったが、実話である分、筆はいっそう冴えている。

 Appleの発表した iDVDに衝撃を受けた。パイオニア製のDVD-R/CD-RW兼用ドライブ。そして iDVDでどこまでのことができるのか?安価なDVDオーサリング環境としてどこまで準=業務用に使えるのか?今週調べてみよう。それから、iNAGO社のエージェント技術についてはこちらで。e-learningにも応用できそうだ。

1月19日(金) 晴れ

 「ファインマン物理学」 III巻 電磁気学(岩波書店)。

1月21日(日) 晴れ

 昨夜は雪。そして今日はうそのように晴れて、大方の雪も融けた、その夜、センター試験の仕事も取りあえず第1フェーズが終了して、少し気持ちの和んだ夜、自転車を疾駆して家にかえった。夜空は快晴というわけではないが、天の雲は不思議に白々と明るみ、ちょっと懐かしい幻想的な風情だった。そして遠い雲を眺めながら、微かに春の予感を感じたのだった。あの夜空の雲の波のように、遠く遥かななにかに憧れをもつひとがいる、そのひとをしっていることにこころがときめき、なにやら淡い希望を感じたのだった。

 吉祥寺外口書店にて、久世光彦「昭和幻燈館」(晶文社、第2刷)「時を呼ぶ声」(立風書房)計1550円。晶文社版の処女作をみつけてほのかにうれしい。読みながら昨夜は寝床で少し泣いた。どの箇所で?

 日経日曜版文化面は、車谷長吉「嘉村礒多の業苦」。嘉村の郷里は山口県吉敷郡。鄙びた美しい村だという。私は山口県というと中原中也くらいしか思い出す術がないので、土地の名を聞いてもああそうかと思うだけである。中原中也のお母さんに昭和47年に逢った旧鬼友Aくんお元気だろうかと、そんなことを思った。嘉村の妹は現在も95歳でご健在だと知って驚く。嘉村の生家に今も住んでおられる由。奔放無頼の私小説作家、嘉村礒多。それでも地元には嘉村礒多顕彰会なるものがあるそうな。そこで講演した車谷氏は、某中学校の講堂で約300名の聴衆をまえに彼の文学的営為について語った。車谷氏いう、顕彰会はあるけれども、それにも関わらず没後67年を経て、なお嘉村への反感は地元に根強いと。放蕩無頼の私生活に対する世間一般の根強い嫌悪感はわたしにもわかる。しかしそのような私小説固有の閉塞にも関わらず、嘉村礒多の文芸のなかに時折きらめく無上の憧れ。

 その下のコラム芳賀徹「詩歌の森」、日本の古典に表れた冬の夜の星と月について。それらは今のわたしの心情に合った。

   身にしむは庭火の影にさえのぼる霜夜の星の明方の空  式子内親王 (新古今)

1月23日(火) 曇り

 「教育工学事典」(実務教育出版)をアマゾンに注文した。11,000円。高い。

1月27日(土) 

 幡ヶ谷にあるヴェンチャ企業に泊まりがけで仕事。WEB上の大学入試合否判定システムのたちあげのため。社長さん以下7名程度のプログラマ集団に、大学入試合否判定ロジックについて、説明をした。さすがに理解が速い。さっそく一夜で、受験型を判定するロジックを構築した。受験型を記述するデータ構造に新味があった。戦闘的なプログラマ集団。徹夜でキーをたたく。まるでリストの超絶技巧練習曲を弾くピアニストのようだ。GetTime関数の構造体の定義について激論が飛び交う。受注ノルマをこなすなんて生易しい領域じゃない。厳しいプレッシャのもとで、難しい注文を実現する麻薬のような快感。これはほとんどロジェカイヨワの世界だと驚くのであった。

 大雪が降った。新大久保駅で不幸な事故があった。仕事に続く仕事で心身ぼろぼろになった。

1月28日(日) 晴れ

 この間に買った本、岸本周平「中年英語組」(集英社新書)、池内了「天文学者の虫眼鏡」(文春新書)。そして「教育工学事典」が届いた。岸本氏は、大蔵省キャリアにして、プリンストン大学にて日本経済論を講義した経験もある。その間のアメリカでの英語にまつわる悪戦苦闘ぶりをつづっている。池内氏の本、Yoさんの薦めによる。天体物理学者が、肩のちからを抜いて、好きな文芸について書いたエッセイ。巻中、安西冬衛の有名な詩「 てふてふが一匹韃靼峡を渡って行った。」に関する生態学からの考察。わたしも、蝶が、群をなしてか単独でかはともかく、峡を渡るということがはたしてありうるのだろうか、と昔から関心を持っていた。岡山理科大で生物の講師をしているT君が同期のMLで話題にしていたのを思い出した。蝶の行動範囲は予想以上に広いのだそうだ。

1月29日(月) 晴れ

 狂乱の1月がぼちぼち終わろうとしている。いくつかの難しい仕事が片づきそうでやれやれといったところ。

 R・キッペンハーン「暗号攻防史」(文春文庫)。西洋の暗号の歴史から現代の暗号理論までを興味深くまとめた本。暗号化や解読の実際の手順が詳述されていて面白い。大高弘達編著「西東三鬼の世界」(梅里書房、800円)は吉祥寺りぶる・りべろにて。ここの東西の文芸書は随分充実してきた。澁澤龍彦・種村季弘・稲垣足穂の誠実なコレクションもある。お好きな方は吉祥寺に用のあるときにお立ち寄りください。(JR吉祥寺駅南出口から線路沿いに新宿方向に徒歩2分、線路高架下) 西東三鬼の評伝・句抄・作品解題。豊富な写真もうれしい。梅里書房の昭和俳句文学アルバムの1冊である。他に、「超図解 パソコン入門」(エクスメディア)は妻子のために。

 

 

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