3月3日(日) 曇り 物語から遠く離れて

 ひな祭りというのにどんよりと曇った肌寒い朝だ。

先日の日経夕刊、女優吉行和子さんのエッセイ『貧しい食生活』から引く。「去年から母も(薬膳料理の会に)加わり、九十五歳になるあぐりさん、ますます元気になるつもりらしい。昨年の暮には白内障の手術をして、世の中がすっかり明るくなり、本人の頭の中も、生き生きとしてきたらしく、映画も観たい、絵画展も行きたい、旅行もしたい、と旺盛な好奇心だ。」(括弧内はやました補足)

「勿論美容師としての仕事もしている。(中略)二十歳そこそこで店を持ち、七十年以上、同じ場所で、規模としては小さくなったけれど、白いガウンを着て働き続けている。」あぐりさんご健在とは喜ばしいかぎりだ。淳之介のぶんまで長生きしてほしい。

いっぽう、郷里の高麗町の叔父さんが亡くなったと母から電話があった。享年九十歳。眠るがごとき安らかな死であった、と。ご冥福を祈り弔電を打った。

仕事も生活も低調で、躁鬱のはげしい日々だ。春の愁いといったところ。そんな日々にあって、金曜日職場近くのりぶる・りべろでぱったりYさんに逢った。まったくの偶然であった。狭い静かな店内でひそひそ声で近況を語りあい、Yさんのために店にキープ?してあった『遊 6』を購入。まあ、ここでは高価な本はかわないが、職場の昼休みよく顔を出すので、店主のご夫婦にもよく知られた顔かもしれないが、いつも不機嫌そうな顔をしたオジサンが、突然の再会をよろこんでいるさまにちょっとびっくりしたかもしれない。ここは、例の『石神井書林』や『月の輪書林』の店主達ともネットワークを持っているようで、面白いことだと思っている。その後、三越1FのTULLY'Sでしばし閑談。職場に戻り、たまたま職場においてあった『遊 3』を献呈。この日も、仕事のうえでささいな不愉快なできごともあったりしたが、この偶然の出逢いは雲間から射す一条の陽の光のようにわたしのユーウツな日々に射した春めいたエピソードでありました。

古川日出男『アラビアの夜の種族』は約三分の一のところで休止中だが、千夜一夜物語のことを思い出し、夕べ書棚から掘り出して、第16巻(全26分冊の版の)を少し読んだ。う〜む、やっぱり原作の芳醇・奔放しかも奇想的な物語世界ほどではないわいな、古川さんの現代版のファンタジーは。と、正直に思う。しかしこの千夜一夜、四半世紀前に巻10あたりで中断して以来の再読である。以来25年である、25年。昭和49年版の精興社による印刷の、凸版印刷と当時の岩波文庫特有の紙の甘酸っぱい香りに、寝床でいささか感傷にふけったりしたのも宜なるかな。

古川日出男の本も、やたらと長いが、先日買った『ダイヤモンド・エイジ』もひたすら長い。上下二段ぎっしりと細かい字がつまって520頁あまり。正直辛い。プロットといい、物語世界の結構といい、本来わたし好みの物語のようだが、いかんせん長すぎる。でだし、宮崎駿の『ナウシカ』や『ラピュタ』のエコロジカルな奇想をぼんやりと想起する程度で今終わってるところ。

これに今話題の天才作家リチャード・パワーズの『ガラテイア2.2』(みすず書房、3200円)を加えた三冊が、先月注目した長い物語だが、いやはや物語を読むという悠長な楽しみからは、もう遠いところにきてしまったなあ、というのが、率直なところ。

BookOffにて、尾崎豊作品集『大いなる誕生』(ソニーマガジンズ文庫、300円)、藤田郁他『CGI&Perlポケットリファレンス』(技術評論社、100円)

と、ここまで書いて石神井公園に出向いた。なにしろ、かねたくさん&やっきさんという若き大読書家をお迎えするので、下準備に余念がない。ネットで調べておいた久保書店を、石神井商店街のはずれに再発見。再発見というのはわけがある。この久保書店というのは、昭和54年頃、池袋線のカルチェラタンこと江古田駅のひなびた商店街の、やや下り坂の道の片隅の、女子大生がしげく通いそうな銭湯の隣に発見して以来、なんと23年来のおつきあいになるからだ。この銭湯隣の、それなりに繁盛していた時代をすぎ、石神井公園北口のかたすみに移り、のち練馬区役所そばに移転して以来、つきあいが途絶えていたが、練馬区役所近傍の対BookOff戦争に敗れて、店を閉じたところまでしかフォロオしていなかったので、今日ふたたび、古巣の石神井公園の、これまた商店街のかたすみに、ふたたび小さい店舗をみつけたことには、聊かの感慨なきとしない。しかし今日ここは出張販売で休みだった。まあいい。それと例の内堀氏の『石神井書林』は店舗は閉じているので(目録販売のみ)、こぢんまりとした瀟洒な店を眺めたのみでおわり。甘い失望のみを重ねて、北口MIC(西友そば)にいったところ、最近もっとも怪しい古本屋の面目躍如で、ボルヘス『ボルヘス、文学を語る〜詩的なるものをめぐって』(岩波書店、940円)にでくわした。今日、日経の第1面の岩波の新刊告知広告で巡り会ったバリバリの新刊(1800円+税)が、手つかずの新本でなんと半額。今、この本屋の一角がもっともあやしい。

で、このボルヘスだが、死後ずいぶんたっても、いまだ新刊がでるのはとてもうれしい。この『ボルヘス、文学を語る』は、ハーバード大学の記念すべき文学講義の一環で、これまで、カルヴィーノやエーコのそれが日本の読書界も賑わせているらしい。それなのに二十世紀文芸の重鎮ボルヘスの講義は、ハーバード図書館の片隅で眠っていたらしい。その講義録の翻訳だというから胸がときめく。どうやら、文芸の本質は詩だと、論じているらしい。さもありなん。

井上陽水『この世の定め』、小柳ゆき『remain〜心の鍵』、MISIA『果てなく続くストーリー』をツタヤにて。

3月6日(水) 

今月の日経『私の履歴書』は経済学者宇野弘文氏。6日目の今日は、旧制一高時代の青春の回顧。竹山道雄・氷上英廣にドイツ語を習い、ゲーテの生き方や考え方に後年の「社会的共通資本」の萌芽を醸成させる。安倍能成校長のリベラリズム。不破哲三・上田耕一郎。寺田和夫(人類学者、寺田透の弟)との交遊などを書いている。

3月8日(金) 晴れ

都内でひとと会うので今日はお休み、明日お仕事。Kさんから黒岩重吾『ワカタケル大王』(文芸春秋)を頂く。帰り道、神田三茶書房にて立原道造全集(愛蔵版)揃い48,000円で目の保養。

●世界中のWebサーバのホームページを、過去にわたって延々と保存していこうというプロジェクト。Archive.org 日々、生成されては消滅してゆく、世界中の分散・仮想の図書館WWWを、時間という軸でも閲覧できるようになった。ちなみにここのページ中央の入力欄に、気になるホームページのURLを入力すると、過去7年程度にわたっての過去のホームページが閲覧できるのである。AppleやYahoo!JAPANのURLを入れてみて、サイバーで不思議なノスタルジーにひたったのだった。(ちなみにネット書友のみなさんのサイトは、サーバの事情によって過去ページは閲覧できない場合が多かったです)

佐々淳行『連合赤軍「あさま山荘」事件』(文春文庫、540円)。ぐいぐいと引き込まれ二晩で読了。傑作ノンフィクションだ。ちょうど30年前の2月、筆者が現場指揮官をつとめた大事件の詳細な記録である。巻の大半を占める事件の攻防もさることながら、「楯の会」事件前夜の三島由紀夫とのやりとりなども興味深く、事件当時中2だったわたしの記憶をまざまざと甦らせてくれた。

・・・・と書いたのち、自分のHPの全文検索で、佐々淳行をしらべると、1999年6月に文春文庫新刊でこの本を買っていたことがわかり苦笑。

●BookOffにて、『アポリネール傑作短編集』フォークナー『エミリーに薔薇を』(ともに福武文庫、各100円)、佐々淳行『目黒警察署物語』(文春文庫、100円)。意外にもこの処女作は粕谷一希氏のすすめで執筆し、「東京人」に連載されたものだという。(文庫解説も粕谷氏。)この本は昭和20年代から30年代にかけての目黒・世田谷を中心とする東京の風俗史になっている。

3月10日(日) 晴れ あやしい古本屋

川本三郎さんが今月の「東京人」に書いた練馬・石神井小紀行にまつわるエッセイのことを、かねたくさんのサイトで教えていただいた。今日は、そこで知った未だ見ぬ古本屋「古本・遙(はるか)」を求めて練馬駅周辺を探検してきた。まず練馬消防署近くの一信堂書店。天井近くまで鬱蒼と本が陳列されている。ここは在庫量がそうとう多いので、じっくり探せば思いがけない本が見つかるかもしれない。次に、練馬区役所正面のBook Offをひやかした。ところが、肝心の「古本・遙」が見つからない。 南口をぐるりと一周したがとうとう見つからず。一信堂の店主に尋ねてもよかったのだが、なんだか無粋でやめた。来週再挑戦することとしよう。

そこで今度は石神井公園に繰り出し、きさらぎ文庫にて吉行淳之介・山口瞳『老イテマスマス耄碌』(新潮社、100円)。久保書店今日もお休みで店主と再会ならない。最後に今一番あやしい古本屋X(隣近所に名前を知られたくないので、ついにその名を伏せることにした(笑))で、小沼丹『小さな手袋/珈琲挽き』(みすず書房)と川本三郎『荷風好日』(岩波書店)が、新品同様で、どちらも半額で、なかよく並んでいるのに驚愕!迷った末に小沼丹のほうを1260円で。(何故川本本を見送ったかというと、実は明日、吉祥寺で野口富士男『わが荷風』を買うことになっているので) ここにはパワーズ『ガラテイア2.2』(みすず書房)もキープ?してある。

●日経読書欄。中村稔『人間に関する断章』(青土社、2200円)、木田元『マッハとニーチェ』(新書館、2800円)、マッハ復活。マッハの影響下に、フッサール・ホフマンスタール・ムージル・ヴィトゲンシュタイン・ヴァレリイ・アインシュタイン・・・。

●とまあ、いろいろと買い込んだり、Kさんから本を頂いたりしているが、その実あまり読んでない。散歩がてら古本屋をめぐってるときが一番幸せな小市民であります。

3月13日(水) 晴れ 中年は悲しからずや

●このところ、ふと、知力・気力・体力・精力の衰えを感じるときがある。それは、仕事のある局面であったり、日常生活のひとこまであったりする。自分は老けていないと思っていたし、今もまだまだ若いと思っているのに、どうやら死と老いの予感は、春先のなま暖かい日の海辺の夕刻とおなじように、しずかに忍び寄り、わたしの生を脅かしている。

●ひとはいつ死ぬか分からない。友人と冗談を言いあって笑っていた直後に、飛び出してきた自転車にはねられてあっけなく惨めな死を死ぬことだってあるかもしれない。時折、こうした想念が頭をよぎる。さびしい想念だ。仕事をしながら、ふと、なんということだろう、少年時代のある生活の瞬間が、ふと強烈に想起されて昏倒する。・・・「幸福な家庭」という、ぼくの書いた美しい書道の紙が壁に貼り付けられた田舎の居間である。今となっては、若かったんだなとほほえましくもある父親が食卓に向かっている、ある夕餉の光景だ。九重さん演ずるコメットさん。夕刻の彗星。宵の明星。小さい庭のフリージア。まだめぐりあわぬ初恋のひとは、近所で三歳年上の少女時代をすごしていた。優しい母。厳しかったが、そののち早世してしまい可哀想な父親。いとしいけなげな弟。これら、すべてが、なんということだろう、2002年のある早春の一日の、都内某所のビルの地階で、一瞬に想起されるのだった。(未完)

久世光彦『美の死』(筑摩書房、700円)、野口富士男『わが荷風』(集英社、800円)は、ともに吉祥寺藤井書店2階で。城山三郎『部長の大晩年』(朝日新聞社、100円、進呈用)、ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』(創元推理文庫、100円、2冊目)、佐々淳行『平時の指揮官 有事の指揮官』(文春文庫、100円)は高野台Book Offにて。

3月17日(日) 晴れ 暇人の日曜日

●次男の中学入学にあたって、北向きの洋室の壁紙を張り替えることにした。ついては、十年来そこにおいてあった文庫の本棚の棚卸しをした。ついでに全冊入力しようと決めた。というのも、このところ、店頭で、はてこの本持ってたっけなと迷うことがままあるので、モバイルでも自分の蔵書が検索できるようにしようと目論んだのであります。は〜、疲れました。半日かけて西洋文学中心に750冊程度入力をすませ、ここに暫定的にアップしました。これで職場でも、もし必要ならば携帯でも、自分の文庫リストが検索できるようになったわけです。

●先週来の宿題。そう、川本三郎さん推薦の「古本 遙(はる)」探し。ネットの電話帳(こりゃ便利)で調べるとあっさり見つかったので、PC入力を終えてのち、練馬駅南口に再度降り立った。消防署・警察署のある通りを、目白通りに向かって直進。目白通りを渡ってすぐの右手。こんどはすぐに見つかった。こじんまりとした清潔な店だ。東京本のコレクション、内田百けん【門+月】のコレクションがある。モシキさんの推す吉田健一『書架記』(中公文庫)がみつかったが、1200円ではどうもね。というわけで、何も買わずに店を出、一信堂書店でしばらく書棚をながめたあと、隣の中村橋駅にひきかえし、ブックセンターナガイとブックマートという2店を覗いた。ナガイで、木山捷平『耳学問・尋三の春』(旺文社文庫、1977年、100円)と、高橋啓介『珍本古書』(保育社カラーブックス、200円)を拾っておいた。ナガイには意外と珍しい本が多かった。

●仕事のためにデジタル複製防止技術の鳥瞰図をまとめた。Adobeのe Booksに注目している。

●今朝の日経。詩人中村稔氏の近況を伝える。書評欄では、橋本治『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(新潮社、1800円)が目をひく。そういえば、りぶる・りべろにおいてあった保田与重郎の著作を買わなくては。

3月19日(火) 晴れ 時代はイグドラシル?

このところ、ずいぶんと春めいてきた。いや、春そのものだ。出掛けにいつものようにコートをまとい外にでると、いつの間にか町を歩くひとたちが薄着になったのに驚く。この季節はいつも忙しいので、はやく咲いた桜を愛でるひまなどなしに数週間があっという間に過ぎてしまう。

●鬼友(奇友?)Fくんが、時代はイグドラシルですよ!と興奮している。つい先日もMacOS XのプログラムMの時代がきたと興奮したばかりで、MのPDFのマニュアル数百頁の出力につきあわされたりしたが、こんどは舌のもつれそうなイグドラシルときたもんだ。

●イグドラシルを販売するMedia Fusionのホームページはhttp://www.mediafusion.co.jp/ 。舌のもつれそうな不思議な綴りの名前の由来については、「『Yggdrasill』とは、北欧神話に出てくる巨大なトネリコの樹のことです。この樹は宇宙の中心にあって、様々なものを内包しながら世界を支えています。神々の王であるオーディンが、この樹に吊るされながら祈ることにより、不思議な力を持つ神聖なるルーン文字を獲得したと言われています。 」とHPに説明があった。この Yggdrasill をエンジンにした、「欧州所在日本古書総合目録」 が公開されている。http://asuka.nijl.ac.jp/xml/korn/index.html 。なるほど、なるほど。

●AdobeのAcrobat 5といい、FLASHのこんどでるヴァージョンといい、SVGといい、時代はようやくXMLに追いついてきたという感じだ。ぼやぼやしていられないな、と痛感することしきり。もっとも、知力・体力・気力の衰えを痛感するこの頃、このままではいかんなあ、と自分をむち打つつらい日々でもある。

3月21日(木) 晴れ デジタルは元気の素?

●先日、仕事の関係で、デジタル複製防止技術についてまとめて以来、AdobeのeBookのことが俄然気になっている。昨日、Adobeのサイトをぐるぐる巡回して、いっそうその感を強くした。eBook Reader(無償)をダウンロードして、サンプルの電子書籍を入手してみる。息子どものすきな漫画『浦安鉄筋家族』の一話ぶんだ。電子書籍の版元からみれば、正規に購入した顧客が、悪意または善意でその電子本を再配布・無断公開することを防止したいのはもっともなことだ。このAdobeのeBookであるが、配布(販売)する電子書籍のデータを、ダウンロードしたPCのみでしか開けないように設定することができる。悪意による再配布・再販売を未然に防止できるのである。他にも、印刷の可否・コピー&ペーストの可否、購読可能な期限などを自由に設定して販売できるのである。 しかも驚くことに、そのサイト運用が、68万円〜140万円程度でできてしまうという。 このeBookの仕様は、JepaXという日本の団体の出版データフォーマット標準化の意向にも準拠しているようだ(現在調査中)XMLというキーワードで、壮大な絵の全貌が見え始めたところで、ちょっと興奮している。

●昨年秋以来、断続的に挑戦中の、サイモン・シン『暗号解読』(原題 The Code Book)だが、やっとこさ74頁までたどりついた。なにせ英語力が貧弱なので、こんなありさまなのだが、それにしてもこの本、無茶苦茶面白い。今、19世紀初頭の鬼才Charles Babbage が当時最も難解とされた暗号を解読するくだりにきている。

3月24日(日)〜25日(月) 晴れ 

●というわけで、お花見散歩。自宅そばから石神井川沿いに石神井池まで、約20分。家族でてくてく歩いた。なぜだか韓国?のお花見客のみなさんが大勢いて、『花』の韓国ヴァージョンをラジカセで聴いていたりする。ああ、いいなあ。泣きなさ〜い、笑いなさ〜い〜。いっしょに歌う。石神井池で家族とわかれ、草思堂・7年ぶりの久保書店、例によってのきさらぎ文庫などをひやかす。豊玉北に移転して再びこの地に還ってきた久保書店とは約7年ぶりの再会だが、町のはずれの小さな店舗にいささか落莫の寂しさを覚えた。ごめんなさい、でも本音。

●ここから、長い小旅行が始まった。石神井公園から江古田に移動。駅北口の根元書房(山口瞳『血涙十番勝負』があった)をかわぎりに、山本書店(たいした本なし)、落穂舎(20年来のつきあい、掘り出し物多し、けど『遊・稲垣足穂追悼号』5,000円は高し)、武蔵大学正門まえの根元書房本店(なんてことだ、倉庫と化してるよ)を順に巡る。こののち、新桜台駅方面に、商店街を北進。環七とぶつかる商店街はずれにあった風光書房(西洋文学専門)跡は、貸店舗の張り紙が悲しい。若かった店主はどこかで元気にやっておられるのだろうか?

●このあと、新桜台駅から開進三小をへて、桜台駅前通りにたどりつき、そのまま南に進んだ。つまり、江古田駅と桜台駅の間を、ほぼコの字型に迂回して散歩したわけである。桜台周辺。音楽学者だった故小泉文夫?さんの高雅な旧宅は駐車場になってるし、往事よりすでに開かずの店で、ひとつの謎だった孝文堂書店?(なぜかここで小高根二郎『稲垣足穂と女色』を買ったことがる)もすでにない。高架になった桜台駅北口の一角に、かつて浅川書店(ここで『稲垣足穂大全』1&4を買った)というちいさな古本屋があったことを偲ぶのは、今や高橋徹氏とわたしぐらいなものか。ここから、線路沿いに練馬駅までふたたび歩く。桜台駅と練馬駅の中間あたり、線路沿いのブックマート桜台店、絶版文庫にはていねいにパラフィン紙がかけられていて値段もしっかりと高い、高すぎる。けっきょく掘り出し物はなかった。

越川亘『SEクライシス』(オーム社、100円)、ゴーチエ『死霊の恋、ポンペイ夜話』(岩波文庫、170円)、和田誠『倫敦巴里』(話の特集、350円)、E.M.フォースター『果てしなき旅』(上・下)(岩波文庫、750円)

3月29日(金) 

昨日はなかなか収穫の多い一日だった。

●日本橋C社のショールーム見学。安価でコストパフォーマンスに優れた、VoD(Video on Demand)映像配信システム。鬼才Fくんとともにこの線で邁進しよう。

●趣味のXML。というかやっと実際にXMLでデータをこさえてみた。先日文庫の棚卸しの際に入力した西洋文学・哲学関連の文庫本所蔵リスト。もとはExcelに入力してある一覧データなのだが、これに<author>や<b_title>といったタグを埋め込み、エディタに書き出せば、あっという間に、XMLのデータができあがる。

 ただ、このままではエディタで開けばタグつきのテキストの羅列にすぎないし、Internet Explorer5以降のようなXMLを扱えるブラウザであっても、データの階層構造にそって折り畳んだり広げたりすること位しかできない。

 そこで、どのように表示させるのかを記述した、XSLを、XMLデータの外に持たせて参照させることにする。以下、一応の完成データ。(インターネット・エクスプローラ5.0以上でしか表示できません。ネットスケープ4.xは未対応。ネットスケープ6.1では表示が確認できていません)

http://www.ba.wakwak.com/%7Eyamashita/document/xml_doc/book_list.xml

これくらいのことは本来、朝飯前のはずで、わたし自身の対応がそもそも遅すぎたのだが、なにはともあれ第一歩なので、うれしい。

3月31日(日) 曇り テキストという魔術

●XMLについて実務的な見識を求められる局面にきて、やおら1年前に買った山田祥寛『今日からつかえる XMLサンプル集』(秀和システム、2800円)を読み始めた。これはなかなか優れた本である。いや、私ごときには、優れた本であるように思う、くらいが妥当か。XMLというのは、入り口は見晴らしのいい小高い丘のようで、おうタグつきテキストはこのようにして世界の全貌を記述できるのか!と目から鱗が何十枚も落ちるような感動を覚えるのだが、いざその森に足を踏み入れるやいなや、XML特有の魔術的世界にめんくらうことになる。

●先日こさえたサンプル(文庫本リスト)だが、表示のしかたを記述しているXSLは下記のようになっている。(インターネット・エクスプローラ5.0以上でしか表示できません。ネットスケープ4.xは未対応。ネットスケープ6.1では表示が確認できていません)

http://www.ba.wakwak.com/%7Eyamashita/document/xml_doc/list8.xsl

くだんの文庫本リストを表示させると、一見単純なtableタグで表組みにしているだけのようにみえるが、実は、インターネット・エクスプローラは、内部処理で、このXMLデータを解釈し、XSLの指示に従い、<bunrui>の文字コードにしたがって昇順に並べ替えて、動的にHTML形式に書き出しているわけだ。けだし、テキストが世界を記述するという、魔術的世界の蠱惑のいったんというべきか。

●魔術的世界と自分で書いて、ふとノヴァーリスを思い出した。先日吉祥寺で今泉文子『ノヴァーリスの彼方へ』(版元失念)という本をみつけて気になっていたところ、たまたま先日、富田さんの有名なサイト『文庫本大好き 岩波文庫コレクション』の掲示板で沖積舎版の全集刊行がはじまっていることを知って感動した。わたしは牧神社版の全集を第1巻のみ所有しているが、いまや全3巻揃いの古書価は2万円を超えるのだそうだ。牧神社版の全集であるが、昭和50年頃のこと、故・由良君美氏の尽力で世にでたのだという。このいわれを、過日、四方田犬彦氏の『ハイスクール・ブッキッシュライフ』で知った。当時、牧神社が出していた雑誌『牧神』で組まれたノヴァーリス特集の座談会に、この今泉文子女史が出席していたのを、思い出したのである。

●この一週間も忙しかった。一週遅れの日経日曜版の話題。庄野潤三『孫のくれたお祝い』、御歳81歳の誕生日のお祝いにお孫さんのくれた心のこもった贈り物について。太田文平『寺田寅彦 人と芸術』(麗澤大学出版会、2600円)「死んだ自分を人の心の追憶に甦らせたい欲望がなくなれば世界中の芸術の半分以上なくなる」(寺田寅彦)・スティーブン・レビー『暗号化』(紀伊国屋書店、2500円)は、『マッキントッシュ物語』の著者による最近の暗号理論のドキュメンタリー。ほかにセミール・ゼキ『脳は美をいかに感じるか』(日本経済新聞社、3500円)、昨秋急逝された石井進氏の遺著『中世のかたち』(中央公論新社、2400円)。

●デジタルと藝術、そしてエロス。

●広島在住のまるさ氏、英語の仕事のために上京。5万ヒットを超える釣り専門サイトを運用しているおかげでネット経由のお弟子さんはぞくぞく集うわ、雑誌『月刊 釣り情報』の取材をうけて今月号にカラー写真で登場させられるわ、いやはや釣りをする暇もないくらい忙しいですよと、うれしい悲鳴をあげておられた(笑)。ネット仲間としておおいに同感。

●今日は古本屋巡りツアーです。かねたくさん・やっきさんと出かけてまいります。

 

[HOME]