2月3日(日) 雨 Interactiveな書物

珍しく雨模様の日曜日。いささか気分も沈みがちだ。ふと春の気配も感じないではないが。

日経読書欄の話題。翻訳家青山南氏が推すのは、リチャード・パワーズ『ガラテイア2.2』(みすず書房、3200円)作家名と同名の主人公は、アメリカの新進作家・母校の客員研究員である。そこでマッド・サイエンティスト風の博士とであい、人工知能マシンへの教育を頼まれる。文学部の大学院レベルの文学的知識をマシンにたたき込んでほしいというのである・・・。

いっぽう、小谷真理氏の推す「これが読みたい」。N・スティーヴンスン『ダイヤモンド・エイジ』(早川書房、3000円)「ここで描かれる未来の読書はいっぷう変わっている。「プライマー」という生きた書物は一種の人工知性体なのだ。(中略)やがて、プライマーは、成長する主人公に合わせて日々変化しながら、物語を通して実践的な教育を施していく。」「二十一世紀半ばの上海、国家解体後の多文化主義社会、ネオ・ヴィクトリア朝文化の流行、ナノテクのあふれる日常・・・ゾクゾクするほど異質な未来のイメージが繰り出されるなかで、少女ネルをめぐる教育・洗脳・双方向メディアといった問題提起が切実に迫る」(書評抜粋)

書物の未来をめぐる隠喩にみちた小説を偶然に2冊も見開きの書評欄でみつけて、妙に興味深く思った。もっとも、ふと最近の自分のしごとに思いをいたすと、書籍・放送・ストリーミング映像・CDROMコンテンツ・WEBコンテンツ・WBT・テスト理論。さまざまなメディアや技術の可能性を探りながら、この8年ほど自分の目指してきたものは、教育用途の<Interactiveな書物>そのものといえなくもない。その遥か延長に、「プライマー」という、生きた、書物は存在するのか?このところ仕事に疲弊し、こころの深いところで病んでいるような気もするが、本来の理想を失わずがんばっていこうと、妙に殊勝な気分になったのである。

さて、突然だが、新田たつおの漫画『静かなるドン』にはどっぷりまってしまった。Kさんの恵送してくれた愛蔵版第10巻が発端であった。本日までにBookOffその他から、単行本1〜24を買い込んで、爆読(笑)中。昼間は下着メーカのさえないデザーナー、夜は関東最大の暴力団の総長。人生を2倍生きざるを得ない主人公近藤静也の、これはこの世ならぬ苦い純愛の大河ロマンだ。昼間の彼が純愛を捧げるヒロイン秋野さん、彼女にふりかかる苦難を救おうと、夜の自分ががんばるたびに、彼女の想いは夜の自分に傾く。(16巻の段階では、彼女は未だふたりが同一人物と気付いていない)

2月5日(火) 

で、相変わらず、Hawking博士の件の本と、新田たつおを読書中。わたしは、今このときは、なんというか、中年のウツといった時期であって、何を見ても何を読んでも、何をやっても、こころは鬱々と楽しまない。しばらく自分をほうっておきたい。

『アラビアの夜の種族』という本を知った。著者は、古川日出男氏である。先日の小谷真理さんのコラムで知った。これまた書物と世界を巡るロマンであるらしい。とある時代、キリスト教徒の侵攻に対し、『災厄の書』という書物で対抗しようとしたイスラム教徒の青年の企てを発端に、世界を書物がじょじょに侵犯してゆく物語だという。 この手の書物をめぐる奇想的な物語といえば、すぐにボルヘスの『神の書跡』やら中島敦の『文字禍』などを思い出してしまう。もともとこの手の物語について根がすきなだけに、ちょっと気になっている。

2月11日(祝) 

世間は3連休だったが、私は日曜日出勤で土・月が休みという、変則的な休みだった。

今日はKさんの神田の事務所に出向き、そこから秋葉原まで新型のVAIOを買いにいった。Windows XPにはじめてふれ、遅ればせながら各種の設定をして勘所をつかんだ。昼食は秋葉原のMの最上階、見晴らしのよい展望台のようなレストランにて。Kさん、Hさんのおふたりと昔の想い出と今の生活や世界情勢についてゆるやかに語り合った。思い起こせば、Kさんと出会ってから33年の月日が流れているのだった。

2月13日(水) 

 鬱深き中年男よ夜の雪

このところなにをしても楽しくない 特にしごとがそうだから末期症状だ。数年前はなんでも新しいことに無性に興味があったが、今やとても保守的になっている。

2月16日(土) 

日野啓三の『鉄の時代』(文芸春秋、200円)『Living Zero』(集英社、200円)の2冊を石神井きさらぎ文庫にて。夜少し読んだが、ぴんとこない。がしかし、日野啓三はちくま文庫版中島敦全集3の巻末の解説で、えらく惹かれているところ。

2月17日(日) 曇り

石神井公園 MIC にて、古川日出男『アラビアの夜の種族』(角川書店、1410円)、川本三郎『小説、時にはそのほかの本も』(晶文社、1100円)を、ともに定価の半額で。

DVD-RW、DVD+RW、DVD-RAMの3陣営が、大同団結して、より上位の規格(ディスク片面30GB)で来年の商品化を目指すと、日経に報じる。う〜む、結末はこういう形であったか。感無量。しかし現行規格の製品はぱたりと売れなくなるだろうなあ。

日経日曜文化面は、平出隆『ドナルドの郵便の力』。

2月21日(木) 

BookOffにて、田辺聖子『ベスト・オブ・女の長風呂』 II&III(文芸春秋)、松浦寿輝『花腐し』(講談社)各100円。吉祥寺外口書店にて、クライスト『壊れ甕』グリンメルスハウゼン『阿呆物語』(上・下)(すべて岩波文庫)計350円。

2月24日(日) 

板橋のN病院へ、長男の担任の先生を見舞った。地下鉄千川駅から徒歩15分くらい。

昨日今日と買った本。『RedHat Linux7 ネットワークサーバ構築ガイド』(秀和システム、4200円+税)、滝田ゆう『滝田ゆう名作劇場』(講談社漫画文庫、680円+税)、織田作之助『夫婦善哉』(新潮文庫、200円)、山下悦子『尾崎豊の魂』(PHP文庫、100円)、ニール・スティーブンスン『ダイヤモンド・エイジ』(早川書房、1570円)。

2月28日(木) 

しっとりと早春の雨が降る朝だ。

あっという間に2002年も2ヶ月が過ぎた。ぼやぼやしてられない。新技術の台頭を横目に見ながらけっこう焦っているのだが、身もこころもついてゆかぬ。さびしい春の愁いの日々だ。

オブジェマガジン『遊 3』(工作舎、1972年)を吉祥寺りぶる・りべろにて800円。安い。工作舎派Yさんのために買っておいた。他に第1期の6号もまだ店頭にある。第1期の遊が市場に出回るなんて珍しいことだ。

ただ今読んでる本。『RedHat Linux7 ネットワークサーバ構築ガイド』必要箇所を拾い読み中、良書だ。織田作之助『夫婦善哉』これは傑作短編集だ、モシキさんお薦めのちくま文庫版短編集『聴雨・蛍』も探してみよう。古川日出男『アラビアの夜の種族』は約3分の1のところで休止中、長すぎる。

まあ、3月は3月の風が吹くだろう。

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