9月2日(日) 晴れ

 寒川猫持「猫とみれんと」(文芸春秋、1381円)(かわうそ亭御主人の推薦による)、江藤淳「妻と私、幼年時代」(文春文庫、429円)、好川哲人「ITとECがわかる」(技術評論社、100円)。Bob Rankin 「こんなにかんたん!RedHat Linux7.1」(インプレス、2800円)、野口冨士男「私のなかの東京」(中公文庫、400円)。

9月3日(月) 曇り

作家の畑山博氏、建築家の毛綱毅曠氏逝去。毛綱氏は奇想的な文体の著作で知られる。

9月8日(土) 曇り・雨 ネットの話題から

ひと恋しい夜である。濃密ななにかが恋しい。仕事のストレスが尾をひく。一週間に一度は携帯もきって、オフにしないと心がもたぬ。といいながら今日も残務を処理しに職場にいった。

Yoさんちの掲示板で、かぐら川さんが提起された<風の民俗学>という概念。そういえば風という漢字には「虫」がひそんでるな。虹なんかもそうだ。こんなときは白川静「漢字の世界」(東洋文庫)にあたる。上巻112頁に記載があった。風は元来は東西南北の方神の使いの鳥の意で、鳳凰の「鳳」が「風」のオリジナルにあたると。やがて時代が下り、龍などの虫にすりかわったそうな。他に大野晋編の岩波古語辞典の解説も興味深かったが、いまは略。

Yoさんのトリカブトにまつわるエッセイも興味深い。オヴィディウス「アルス・アマトリア」も昔から気になっている本。高校3年の時、週刊プレイボーイの記事で「すべての動物は性愛の後は悲しむ」という警句を読んだ覚えがある。ほんとの記憶かしら?すべての雄は・・・だったかしら。

かねたくさんの日記で、綾瀬の古書店「デカダン文庫」を知った。近代日本文学の稀覯本を扱う本屋は神田にも多かろうが、値段も相応だろう(よく知らないが)。このデカダン文庫、店主のかたの嗜好がそのまま店の雰囲気に昇華しているようで、誠実で清楚なお店のようだ。かねたくさんの興奮も頷ける。私もまるで自分が見つけたかのように、わくわくした。(我が隣町、石神井公園には日本近代詩の専門店、有名な石神井書林があるがここは店頭売りはしていない。店にはこの十年で一度入ったきりである)

そのデカダン文庫をGoogleで調べていて、思いがけずも面白いHPをみつけた。Index to Anthologies 野村宏平氏のHPである。「ミステリ、SF、ホラーファンのための古書店ガイド」や「Tokyo Borderline 」などに共感すること多。

9月9日(日) 曇り・雨 台風接近

台風のせいか断続的に激しい雨が降った。そのせいで遠出もできず、近所のPCショップやBook Off を覗いた程度。LINUXのインストールに躓いて悪戦苦闘中。特に語るほどの高度なことではない。ひとつにはDOS/Vマシンのハードウェアに疎いこともある。内蔵ハードディスクひとつすら交換のノウハウをもたない。鈴木志郎康氏を見習ってがんばらなくちゃいけないな、と、「日経クリック」を買って最近のPC事情をお勉強した。

丸谷才一・山崎正和「日本の町」(文芸春秋)、G・サカリー「闘うプログラマー」(上・下)(日経BP出版センター)以上をBook Offで300円。丸谷・山崎両氏の対談集は2冊目。巻中最後の東京論に共感するところ多い。近日まとめよう。 「闘うプログラマー」はマイクロソフトのNT開発秘話。昔から読みたかった本だ。いま少し読み始めたが面白い。

9月13日(木) 雨・曇り

りぶる・りべろにて、関川夏央「豪雨の前兆」(文芸春秋、500円)、ユング・パウリ「自然現象と心の構造」(海鳴社、100円)。よみた屋にて、鈴木了三編「中国奇談集」(教養文庫、200円)。

USAにおける悲劇を悼みます。

9月16日(日) 曇り・晴れ

アメリカのテロ事件の後、なかば放心状態である。聖戦に殉じたイスラムの青年達の顔写真をテレビで観た。黒幕と噂される指導者たちは、先物取引などの国際金融において、(予定通り決行された)青年達の殉死のせいでふたたび巨額の富を得たのだと、アメリカのマスコミが非難している。おぞましいがありうることだ。そのアメリカだって、もし報復が長引くようであれば、命を落とすのは現地に送り込まれる青年達であろう。いつの世も、そうやって命を落とすのは、かよわい女子供や老人達や、未来ある青年達だ。大岡昇平が、晩年の『成城だより』のどこかで、20世紀は壮大な子殺しの時代だと喝破している。戦争といい、革命といい、大義や理屈はあとからついてくるが、とどのつまり無駄死にするのは青年達ばかりだ。幼児虐待や小学校乱入殺傷事件が記憶に新しい今、なぜこうも弱いものだけが迫害されるのだろうと、嘆くのである。大勢の無辜の民が一瞬にして死んだ瞬間を、何度も何度も映像で見せつけられて、最後は疎ましくTVをきってしまったこの私も、もちろん無垢ではない。

練馬区役所前Book Offにて、辻邦生「遙かなる旅への追想」(新潮社、100円)、重兼芳子の遺作「たとえ病むとも」(岩波書店、100円)。

9月17日(月) 晴れ

不快なことも多かった週明けの月曜。吉祥寺ルーエにて、川本三郎「東京残影」(河出文庫、780円)を買って帰る。このところ、やたらと百円均一本を買いあさっているので、たかだか800円の本ですら、えらい出費のように思われてならない。川本三郎は、朝日ジャーナルのエリート記者のころからよく名前を知っているので、懐かしいし、気安いし、大いに共感もするのだが、 ありがたく押し頂くように読むというわけでもなかった。ネットのみなさんの協賛によって、ようやくこの頃読み始めたというわけだ。 今、疲れてヘロヘロになって、敢えて書くが、このひとの想いのほんとうの部分については、彼は未だ一筆も書いていないのだと、そんな風に感じるのだ。この本をちらちら読んで。

9月23日(日) 晴れ

台風が通過したこの1週間、雨模様の日が多かった。仕事も繁忙・煩瑣の連続だった。ようやく今朝解放されて、こころとからだの疲労を癒そうとしているところ。日経ビジネスの最新号をみると、読者の7割が「勉強をしている」という。読者アンケートの結果である。勉強の中身は商法や金融の資格関係からTOEIC、情報システム関連まで幅広い。わたし自身も、今の閉塞を打破するために、より高度な知識を身につける必要性を痛感している。目下の所は、WBT(Web Based Training)に関する情報の収集だ。例えば先進学習基盤協議会

いっぽうで、またプログラミングへの憧れもちょっと燻っている。awkに関する浩瀚な情報源。Effective AWK Programming これらの有益な情報が公開されているWWWの世界のすばらしさを再認識する。

今朝の日経、読書欄コラム「人が築いた日米同盟50年」を編集委員伊奈久喜氏が書いている。アメリカでの悲惨なテロの数日前、9月8日は、サンフランシスコ講和条約から50年目の日である。(ちなみに今週の日経ビジネス誌には記念式典で祝辞を述べる田中外相の写真が掲載されている)「国と国との関係は、外交官同士だけでなく、相手を本当に理解できる知識人を互いにどれだけ持てるのかにもよる。日米の半世紀が成功物語だったとすれば、日米間には「人」がいた。」と締めくくるこのコラムで紹介している本は、船橋洋一「同盟漂流」(岩波書店、1997年)、入江昭ほか編「日米戦後関係史」(講談社インターナショナル、2001年)、細谷千博監修「日本とアメリカ」(ジャパンタイムズ、2001年)。テロ事件の後、日本が難しいスタンスにいるだけに、これらの書物から学ぶことは多いだろう。テロ事件と日米関係のありかたについて、日経ビジネス誌も多くのページをさいていてためになった。緒方貞子氏(前国連難民高等弁務官(ニューヨーク在住)への緊急インタビュー「アフガンの難民問題にも目を向けよ」も貴重だった。こうしたアジア・欧米をまたぐ巨視的視点にたって世界の平和と共存に貢献するのも日本のつとめと思うが如何であろうか。

さてやっと読書の話題に。今村与志雄訳「唐宋伝奇集」上・下(岩波文庫、700円)を草思堂にて。不幸にして一度失った本の買い直し。かつて買った当時は、熱心には読まなかったが、これが意外に面白い。かつて芥川龍之介は病めるこころの慰めとして「聊斎志異」を愛読したというが、気分はそれに似ていて、夜更け仕事から帰って、傷んだ心を慰めるためには、この本がちょうど似つかわしい。第一、短いお話なのがいい。

短いお話と書いたが、この伝奇の文体は、「伝(伝記)」に由来するのだと今村氏は書いている。「某某という者は、某地の人である」と書き出して、作者自身の感想や第三者の批評、いいかえますと、賛や論などの評語で結ぶという手法を踏襲しております。あるいは、作品を書くに至った経緯をおわりに書きそえております。

今のわたしには、この簡素な物語構造が心地よい。簡潔な文体が心地よい。永井荷風「雨瀟瀟」の詩文の世界とあわせて。唐宋の伝奇は中島敦「山月記」、森鴎外「魚玄機」、芥川龍之介の諸作品、上田秋成「雨月物語」など、近現代の日本の小説にも大きな影響を及ぼしている。

9月24日(月) 快晴

朝起きたら、空にはひと刷毛の雲もなかった。快晴。今(午後9時)、西の空に半月が懸かっている。

昨晩は、銀座7丁目ライオンにてオフ会。初めてのことなのでやや緊張して出向いた。かねたくさん、モシキさん、やっきさん、由里葉さんとあわせて5人。時のたつのが惜しいほど充実した時間だった。ここでかいつまんで書くと、多分わたくしの主観に染まるので今は書かないけど、みんな他の方を気遣っておられたのがとても印象的だった。

昨日今日買った本。会でも話題になった川本三郎「荷風と東京 「断腸亭日乗」私註(都市出版、1700円)、アスキー10月号(890円、この付録CDROMのLinux MLD mini版は、無事Aptivaで起動できた。)、戸板康二「久保田万太郎」(文春文庫、200円)。この他、永井龍男「東京の横丁」(講談社)「石版東京図絵」は見送ったが近日買おうっと。

四十数回目の誕生日。やや心が晴れないはこのせいでもある。もっと頑張らねば、何を?

9月26日(水) 

昨夜仕事の帰りに石神井公園に立ち寄り、閉店間際の草思堂にて永井龍男「東京の横丁」(講談社)850円。かねたくさんのため?疲労コンバイ、読む閑なし。

9月30日(日) 曇り ネタ切れ

世界で一番長い物語。インド中世の詩『物語の大河は海に注ぐ』ソーマデーヴァの作。東洋文庫から『屍鬼二十五話』という抄訳がでているが、これは、この長大な詩文の、あるエピソードのなかの、さらに入れ子になったエピソードのたったひとつにすぎないという。(岩波文庫からも近年復刊されている。)このように、物語のなかに順繰りに入れ子で物語を織り込んでゆくスタイルは、『千夜一夜物語』にも多くみられるところ。『宇治拾遺物語』は、散逸した『宇治大納言物語』という希有の物語の、エピソードのひとつである、という設定になっている。

世界で一番短いエッセイ。有名なところでは、ルナール『博物誌』の「蛇」だろうか。たった一文のみ、「長すぎる」(岸田国士訳、新潮文庫)原文は、Trop longue. だったかしら。

世界で一番秀逸な推理小説のプロット。アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』にも驚嘆したが、近年思いつくところでは、アシモフの『黒後家蜘蛛の会』創元推理文庫版第1巻所収の「明白な要素」。仁義にもとるのでネタはここでは書かない(笑)

読めない詩集。瀧口修造の『地球創造説』(版元不明)。その昔、渋谷の三省堂で立ち読みしたことがある。黒い紙に黒いインクで印刷してあった。凸版印刷による活字の打刻で生じるわずかな窪みと、インクのもつ光沢でかろうじて読めた。

本に埋もれて(圧死)狂死する話。ご存じ中島敦の『文字禍』。ボルヘスっぽくて好きな短編。

女が男の首を切り取って愛玩する物語。有名なところではワイルド『サロメ』のなかのビアズレーの挿絵。『デカメロン』のなかの挿話のなかに、殺された恋人の首を鉢植えのなかに隠す女があった。『赤と黒』の最終部。(今朝の新聞の「芸術新潮」の広告にカラヴァッジョ(ホロフェルネスの首を斬るユディット)の絵をみつけて)

(以上すべてうろ覚えで書きました)

西原理恵子・神足裕司「恨ミシュラン」上(朝日文庫、350円)バブルの頃の風俗が懐かしい。西原さんって真面目なひとなんですね。こういうひとって好きです。

今朝の日経。川本三郎が池内紀『ゲーテさん こんばんは』(集英社、1900円)を誉めていた。川上弘美さんが新作『センセイの鞄』について語っていた。

 

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