4月4日(水) 晴れ

 4月。そうとうに鬱々としている。慢性のカゼのようにぐずぐずと切れめなくつづく仕事。自分自身のなかの老いの徴候に愕然とし、いったい今まで何をしてきたんだろうと、馬齢を重ねた歳月を悔いている。マラルメの「海の微風」のなかの、

Je sens que des oiseaux sont ivres

D'etre parmi l'ecume inconnue et les cieux !

(未知の水泡と天空の中の存在に酔っている鳥の群を感じる)

や、牧水のよく知られた歌

白鳥は哀しからずや空の青うみのあをにも染まずただよふ

を想い出したりする。

 「Dreamweaver&Fireworks&Flash」(毎日コミュニケーションズ)1280円。生活と仕事と健康と読書のあり方を立て直さなくてはいけない。

4月8日(日) 晴れ 陽水のうたう「花の首飾り」

 昨夜、有線で耳に飛び込んできた陽水の新曲(なんでもナントカ茶のCFに使われてるらしい)。昭和43年にタイガーズが歌った歌。陽水がうたうと、三十余年前のGSの名曲は、とたんにロマン主義的な昂揚のあとの挫折やせつない沈倫に彩られた苦い曲になる。なにより歌う陽水自身がこんな擬ギリシャ神話的な陳腐な愛の歌曲などはなから信じてはいない。ではなぜ彼は切々と美しく歌うのか?そんなことを考えていたら竹田青嗣「陽水の快楽」(河出書房新社)の精緻な批評を想い出した。今の鬱々とした気分にぴったりなのでTSUTAYAに借りにいったがなかった。夕方、NHK総合で宇多田ヒカルの特集を観た。(意外と藤圭子ににてるんじゃないの?素顔はぽっちゃりして愛嬌があるのね。)

 そんなロウな日々に、かねたくさんの知己を得た。小生学なし、暇なし、金なし、色気なしのなしなしづくめに加えて、このところ本も読まなくなった。看板で偽りたくもなし、悔しいので暫く休もうかと思ってるくらいだが、凡夫の努めは継続にこそあり、と、ぐっとこらえているところだ。

 かねたくさんのBBS「本読みは語る」で、「東京人」〜特集・古本道〜を知り、吉祥寺で買った。神田神保町「田村書店」奥平二氏と、向井敏・鹿島茂両氏の対談。堀江敏幸氏の早稲田古書街巡りなどたのしい文が満載である。他にも収穫はたくさんあった。最近気になる西荻窪(なにせ職場から歩いてゆける)の「ハートランド」や、自宅そばの「石神井書林」(店主は著作「ボン書店の幻」で有名)、吉祥寺「よみた屋」など縁のある本屋が登場している。アンケート「古本通に聞く、目利きの主人のいる店」では、吉村昭氏が、これまた職場近くの「外口書店」を紹介しているし、関口苑生氏の小文では、池袋芳林堂にあった高雅な書店「高野書店」のその後のいきさつを知った。他に小特集「東京猫町」もうれしい。

 日本古書籍商協会など21カ国2000の古書店が構成する世界古書籍協会(ILAB)が、世界中の古書籍の検索・購入が可能なサイトを開設した。http://www.ilab-lila.com/ 戯れにGerard de Nerval で検索をかけると、フランスはもちろん英国・米国・スイス・ベルギーなど世界各地の稀覯本の情報がたちどころに得られて感動した。

 他に紀田順一郎「古書収集十番勝負」(創元推理文庫)。

4月11日(水) 晴れ

 満月の夜、自転車を漕ぎながら「花の首飾り」を歌う、へんなオヤジになった。このいかがわしさ、芸術論の一編に昇華しそうな気もするが、考える暇がない。

 昼休みには、職場近くの「りぶる・りべろ」で本のチェック。山口瞳「男性自身」単行本版各冊800円〜1000円・高山宏・小沼丹作品集(小沢書店)揃い6万円は高い?おや、モシキさんの気にしていた渋沢龍彦編集のブラウン・バートンの二奇書の抄訳本(筑摩書房)は1500円で美本だな。このように吉祥寺特派員(笑)として生きることにした。

 そこで、金子幸彦「ロシヤ文学案内」(岩波文庫)、季刊リテレール第2号「私の偏愛書」計600円。

4月13日(金) 晴れ 「ハイゼンベルク変奏曲」

 永嶺重敏「モダン都市の読書空間」(日本エディタースクール出版部)が昨夜届いた。有隣堂と日販の共同サービス「本屋タウン有隣堂本店」で注文した。即日発送・翌日着という迅速さがうれしい。ちなみにこの日版の書籍データベースは、他と違い、書籍ごとの索引ファイルに、目次とか梗概の情報も入力してあるので、意外な書籍がひっかかってくる場合があって面白い。例えば稲垣足穂で検索すると堀切直人さんの著作まで抽出されてくる。一度お試しあれ。

 永嶺重敏さんというひと、1955年鹿児島生まれというから、同郷同年代のかたである。同じ人生を歩んできながら、いっぽうは読書文化史に関して浩瀚な書をものし、いっぽうは相変わらずの支離滅裂読書、このところは満足に本も読まない。ああ、気分が鬱だと些細なことですら落ち込む。変な精神状況である。

 由里葉さんちの掲示板で、稲垣足穂の幻の遺作「ハイゼンベルク変奏曲」が話題になっている。亡くなった当時、工作舎の刊行予定書目のなかに、松岡正剛との対談集「タルホニウム放射圏」と並んでいた記憶がある。どのような事情があったのか分からないが、どちらも現在に至るまで刊行されていない、<幻の書物>である。「ハイゼンベルク変奏曲」は、ハイゼンベルクの「部分と全体」(みすず書房)の、足穂流の精密な読書録ではないかとわたしは想像している。「部分と全体」の抜き書き。そこに足穂の最晩年の所感が書き添えられている。このような形式で、ハイゼンベルクの思想の最良の部分と、文学者としては稀有の自然学センスをもっていた足穂の精神が、照応しあう書物・・・。おそらくその執筆作業(原稿)は、「部分と全体」の大半を抜き出す(書写する)という営みに大半が費やされていたに違いない。

 「芸術とは幼な心の完成である」との信念を生涯を通じて実践した足穂。その最晩年の、生涯の総括ともいうべき遺作原稿の、そのほとんどが、ある科学者の自伝からの抜粋であるとしたら、刊行にあたって原作者・翻訳者の著作権が看過しがたい問題になった可能性はあるだろう。そもそも、ほとんどが別の書物の引用であるような作品を、読者は買い求めるであろうか?

 わたしは、しかし、この幻の書物を想像するとき、足穂に限りない共感を覚えるのだ。

 ボルヘスの晩年の作品「砂の本」で、ボルヘスが手に取るのは、無限のページをもった、始まりもない終わりもない書物である。(その怪物のような書物は、売り飛ばされるか膨大な蔵書のなかに埋もれるかして、現実のなかに溶解する)この夢想にももちろん心はときめく。しかし、かたや、最晩年の足穂が金精こめて書き、夢見るのは、ついに幻に終わるかもしれない1冊の書物である。その手書き原稿の束である。そこには彼が敬愛したひとりの科学者の、ぎりぎりのエッセンスが、作家の言葉に解釈され直すこともなく、オリジナルのままで、秘かに眠っている・・・。

4月15日(日) 晴れ

 昨日は仕事の打ち合わせで、渋谷宮益坂上、青山学院そばにいった。仕事の終わりは同僚と別れて、近くの中村書店・巽堂書店の書棚をじっくりと見た。いい本も多かったのだが、仕事の後はどうしても波動があわせられない。久世光彦「陛下」(新潮社)を600円で買ったのみ。この日は、渋谷・吉祥寺・石神井公園とけっこう多くの本屋を回ったが、これっきりであった。

 目下の懸案:山口瞳の著書目録(現在作成中)、雑誌「遊」第1期総目録の作成。後者をXML+XSLTで記述してみたい。

 井上陽水「花の首飾り」をツタヤでみつけた。うれしくてルンルンしながら、八重桜がぼってりと咲く川沿いの道を散歩して帰宅した。何度も聴きながらたまっていたレスをひたすら書いた。随分と昼の長くなった春の夕刻、ネット上の話題やら陽水やら、これら渾然一体となって久しぶりに幸福な気分になった。アランの「幸福論」は近所の本屋になかった。陽水の出演している「聞茶」のCFを見ることができてうれしかった。

4月16日(月) 晴れ

 大林太良・田久保英夫・勅使河原宏・三波春夫・河島英五。最近亡くなられるひとが多い。ご冥福をお祈りいたします。

 アラン「幸福論」(岩波文庫)660円。30年来の敬遠に終止符をうつ時がきた。きっかけを与えていただいた旅人さん・かわうそ亭御主人にこの場を借りて御礼申し上げます。

4月17日(火) 晴れ

 陽水の「花の首飾り」を夜更けに聴いた。この歌や陽水に関してはYoさんの的確なオマージュもあるし、若き日の竹田青嗣が書いた「陽水の快楽」における実存主義的な批評もある。もう、しつこいから書くのをやめようと思うけど。それでも聴くと、なんだかなあ、少年の日のプラトニスムと、せつないエロティシズムが混じったような不思議な気持ちになるんだよなあ。いずれも過ぎ去ったことだけに・・・。このところ、純愛が性愛を拒絶する理由が本当に理解できるようになった・・・。私ってほんとに高3の頃から進歩してない。

4月22日(日) 晴れ

 天気はよいが、風が強い。近くの照姫祭り(戦国時代の石神井城で滅びた一族。その伝説の姫に関して富士正晴が「豪姫」という小説を書いていたはずだ)に、長男と出かけたが、風が強いのなんの。

 その石神井公園にて、鹿島茂「衝動買い日記」(中央公論新社)、安原顯「しつこく ふざけんな!」(図書新聞)。しめて1000円。前書はこのところネット上で評価の高い鹿島さんのエッセイ集。軽いエッセイなので真価は未だわからない。氏は子供の頃、火を焚き付けるのが好きだったそうだ。わたしと同じで親しみがわいた。七輪(知ってる?)いまだ健在なのを知って懐かしく、思わず衝動買いするひとに悪いひとはいなかろう。後書では、図書取次業界の悪しき慣行を知って愕然とした。これじゃ、啖呵を切るのももっともだ。ところでこの本を読んでて気がついたが、「海」の編集長は、ずいぶん前になくなった塙さん(名前思い出せない)であった。わたしの勘違い。また今はなき?竹内書店の伝説の季刊誌「パイデイア」は、安原さんが創刊したのだそうだ。わたしは「エピステーメー」の鬼才編集者中野幹隆さんが創刊したものとばかり思っていた。

 ほかに、金関丈夫「新編 木馬と石牛」(岩波文庫)。筆者は東西比較民俗学の泰斗。「和洋漢にわたる象のように重い知識と、それに拮抗し得る鳥のように軽い精神」で、南方熊楠に比せられるのだとか。「Vagina Dentata」 などの著作を足早に読んだ。

 ADSLが我が家に開通した。もっとも家族はあまり感動していないが。実効スピードはBest Effort(1.5Mbps)の半分くらい、700Kbps前後だ。ま、それでもISDNの10倍以上走っているのだが。これから改善されてゆくのか、電話局との距離(やや遠い)の関係で、こんなところで落ち着くのか、まだわからない。プロバイダは、NTT-MEのWAKWAK。こちらは常時接続でも月800円ですみそうだ。

 NHKの連続テレビドラマ「ちゅらさん」をBSで1週間分まとめて観た。沖縄好きのわたしにはうれしいドラマ。現地ロケもおこなっているようでふんだんに沖縄本島の様子が映る。主役国仲涼子や山田孝夫が初々しい。堺正章のおとぼけ役がはまってる。毎週土曜日の楽しみが増えた^^。

 日経朝刊。辻井喬のエッセイ「若葉と夭折」。書評欄では、学力崩壊をテーマに、「論争・学力崩壊」(中公新書ラクレ)、大野晋・上野健爾「学力があぶない」(岩波新書)、西村和雄編「学力低下が国を滅ぼす」(日本経済新聞社)を俎上に乗せている。ほかに、坪内祐三「慶応三年生まれ七人の旋毛曲り」(マガジンハウス)、岩渕功一「トランスナショナル・ジャパン」(岩波書店)「グローバル化は、文化の成立する場全体をトランスローカルな流動性の場へ置換する」(評者 吉見俊哉)

4月25日(水) 

 朝。沈鬱な雨が降っている。

 近頃とんと本を読まぬ。いや、読む暇がない。小谷野敦「バカのための読書術」(ちくま新書)を買った。「もてない男」「恋愛の超克」を本屋で立ち読みしたきりで、著者にちと悪いと思ったまで。

 朝のNHK連続ドラマ「ちゅらさん」がいい。憂鬱な朝、Kiroroの美しい主題歌と、小浜島の美しい風物〜海と空〜で始まる愛らしい家族の物語に心和む。主役国仲涼子、山田孝夫の初々しい兄弟コンビ。堺正章・田中好子がはまり役の夫婦を演じ、祖母には生粋沖縄の大女優 平良とみさん。

 久世光彦「卑弥呼」のTVドラマ「愛のことば」、尾崎豊の命日にあわせて公開される「LOVE SONG」。

4月29日(日) 

 明け方。春の雨がしっとり降っている。

 一昨日、吉祥寺「りぶる・りべろ」で500円で求めた城山三郎「部長の大晩年」(朝日新聞社)を読み始めた。ご存じの通り、俳人永田耕衣の評伝風の小説である。98年9月の刊行当時話題になった本だが、買いそびれていた。永田耕衣は、三菱製紙の管理職として55歳の定年まで勤め上げた。サラリーマンとして働くいっぽうで、俳人としての堅固たる世界を確立した。そして定年後の長い晩年で、その才を大輪の花のように開花させ、1995年の阪神大地震にもめげず、1997年に97歳でなくなった。地震では命を拾ったものの神戸の住居を失った(幸い火事にはならなかったので蔵書はほとんど<発掘>されたらしい)。当時95歳。同人たちの心配をよそに詠んだ句。「白梅や天没地没虚空没」「枯草や住居無くんば命熱し」

 ☆小谷野敦「バカのための読書術」:標題がなにかと誤解を招くところは「もてない男」と同じ。良書である。教養主義の立場で、似非教養主義の通念を廃する方針でかかれた読書論。とどのつまりは、山川の世界史・日本史の教科書の再読が鍵だなと。これは私個人の感想。

近くのBOOK TURNで、円地文子「妖」(新潮文庫)、山口瞳「男性自身 生き残り」(新潮文庫)、矢野健太郎「数学物語」(角川文庫)※長男への贈り物、川本三郎「雑踏の社会学」(ちくま文庫)、柳史一郎「伝説の雀鬼 桜井章一伝」(幻冬社文庫)他。すべて100円均一なり。

 ☆円地文子「妖」:昭和30年から32年にかけて発表された短編を集めたもの。おんなとしての衰え・老いにまつわる情念を描く。文体がしっかりしているので、風俗に古さを感じさせないのは立派。このところ自分のなかの老いの予感をみつめているので、文体に共振できる。

 ADSL。TCP/IPの設定で、MTUとかRWINという値を大きくしたら、実効スピードが上がった。ベストで約1Mbps位。WindowsのLANのことを勉強しなくちゃ。

4月30日(月) 雨 百円均一読書日記

 連休の前半は、雨。そのせいもあってか本読みに明け暮れた日々。パスカルの言じゃないけど、家にじっとしてGWを過ごすのも悪くない。

 

 

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